Act8 脱出


私の不思議体験は尽きる事を知らないようだ。 ・・・あまり発見したくない事実である。 痛む頭に何とか思考力を踏みとどまらせて、米神を押さえた。 「えぇっとつまり、あんたは人工知能を持つ機体で?地球軍で密かに開発されてて?そんでずっと  ココにいて搭乗者を待っていて?それで私は何だって?」 “貴女は私の主であり、私は貴女だけの機体なのです” いつからそうなった…… 内心だけでなく顔面で思いっきりそう言ってやるが、しかしそれを気にした様子もなく無機質な音 は自分が望むものとは正反対の言葉を紡ぐ。 “マスター、私の主は貴女なのです。どうぞご命令を” いま何をおっしゃったんでしょうかこの機体さまは。 瞬時に目が据わり、頭痛さえ吹っ飛ばして下さった問題発言に心が揺れる。険悪な方向へ。 いや、知ってる。分かっている。 今これが何という文章を詠唱し、誰に向けて告げたのか。 分かっている。 けど、でも、だけど! 根本的な所からしておかしく思う故もの申したい次第であって! それはもう心の底から全宇宙に轟くほどに主張したい心情であるわけで!! 「待てっつのおかしいだろう明らかに方向が!いくら私があんたの『主』とやらでも私は戦闘機に乗  れない!むしろ乗る気もないッ!」 命令以前の問題だって!てかマジ何なのこの状況は!? は現状を何とか理解し整理しようと奮闘する。 が、それを待ってくれる時間はあまり無いというのが現状だった。 一瞬の静寂。 壊れたか?と歓喜したのも束の間。 それを粉々に打ち砕くような爆音が大音量で要塞中に響き渡った。 「っ、な、何!?」 足下がグラグラと大きく揺れ、その後も何かがぶつかり合う音や爆発音が耳に届く。 さながら地震発生装置にでも立たされたような衝撃は、二本の足で立っている事すら困難だ。 思わずがしりと先ほど見知ったばかりの機体につかまる。不本意である。 “アルテミスがザフトの襲撃を受けています” 「げっ!」 は目の前の機体に乗って良いものか迷ったが、今はそれに構っている暇はないと腹を括 ってすぐにそれに乗り込み、ハッチを閉めた。 今からアークエンジェルに戻るのは恐らく無理。 状況が状況とは言え、こんな流されるままに怪しい機体に乗っちゃって大丈夫なんだろうかという 思いももちろん抱いた。だがどうせここは崩れるのだし戻る暇も時間も無いので開き直る事にする。 質問は後回しにして、とにかく今は仲間の位置と安全と脱出だ。 切羽詰まった状況で他に選択肢など無かった。 「出られる?」 幾分か不安な声になってしまったが仕方がない。不本意だが脱出するのは自分一人の力では無理だ し、かと言って人工知能を持つ機体に信用を預けていいのか分からない。 流されるように搭乗してしまったが、戸惑いや困惑も確かにあるのは拭えない事実。しかし今は選 り好みしている場合でもないというのもまた事実。 容赦なく信用の欠片もない声音での質問にも、機体は丁寧に答えた。 “もちろんです。ゲートコード入力。発信準備完了。前方に障害物無し” 今はこの機体と共に行くしかない。 えぇい女は度胸、と決意を固めた時、はふと沸き上がった疑問に首を傾げた。 「ねぇあんた。名前は?」 “…私に名前は付けられておりません” 「あ、そ。じゃあ、あんた今から『ゼロ』ね」 数字みーんなゼロだったから。 安易? 気にしなーい! “・・・ありがとうございます、マスター” 「だっていつまでも『アンタ』じゃ呼びにくいし。そんじゃ、まあ……」 行きますか。 はギリッと操縦桿を握りしめた。 「ゼロ発進!」 “了解。発進致します” ん、ガンダムっぽさが溢れてるね!!いやそんな呑気な感想抱いてる場合じゃないんだけど。 息つく間もなくゼロは一気に加速。 当然そうなれば身体に掛かる負荷も相当なもので。 ……Gがスゴい。 はゼロと共にアルテミスから脱出し、宇宙へと飛び出した。 が。 「ぎゃあああ!!ちょっとゼロ!何かフラフラしてるんですけど!!!」 “申し訳ありませんマスター。まだ微調整が終わっておりません” さっき発進準備完了っつっただろーがー!!!! 実際に声を出しても騒音で掻き消されそうなので内心で大罵倒するが、もう遅い。 ゼロはふらふらと、不安定に宇宙を飛ぶ。 ああもうラチがあかん!というより、イラついて仕方ない。 「ゼロ!通信開いて!」 “まだ全周波でしか使用は出来ませんが宜しいですか?” 「かまわない!」 “了解しました。回線開きます” はすうっと息を吸い。 そして。 「アークエンジェ――――ル!!!」 叫んだ。 「私ですです!現在地どこですかぁーーー!!」 砂嵐しか映さない画面はただ音声のみを発信する。 「今アルテミスから脱出して紅と黒の不明な機体に乗ってるんですが未整備で現在地把握できませ  んっていうかアークエンジェルはどこなんですかっつか助けて下さいいぃ!!!」 ザー…… 「誰か返事して下さいよ―――、おーい…」 し~~~~ぃぃん………………。 ………………。 ……誰か出ろやオラァ!! ………ザザッ 『!?』 もしやこのまま誰にも気付いてもらえないんじゃ、と思ったところでようやく自分以外の声が耳に 届く。 キラだ。 キラだー。キラ・・・・・・・・・ ……ん? キラ? ………。…あ!! わ、私ってばキラを心配してアルテミスに忍び込んだのに! ご、ごめんキラ、君の事すっっっっかり忘れてた・・・・・・! やべぇ、と口元をひくつかせる。が、そのすぐ後に回復したカメラ映像にキラの顔が映り込んでき たので瞬時に表情を切り替えた。今思い出した事は思い出さなかった事にしよう。 キラは少し焦った様子で早口に言う。 『ごめん今そっちに行けないんだ!座標送るからそれで何とかアークエンジェルに!』 「わかったありがとー!(そしてごめん…!)んじゃ早速……」 『待て!』 移動しようとしたに、キラとは違う声が通信に割り込んできた。 何だよこんな時に…!とギロリと睨み付けるが、すぐにそれは引きつった表情に変わった。 そろりと前方モニターを見る。 ……まあ。やけにカラフルなMSが揃っておりますのねオホホホホ…、 ………、………………。 青、赤、緑…三色がズラリ……と並ぶ様は圧巻だ。そして絶体絶命だ。 はガクリと肩を落とす。 見たくないものを見てしまった。今度から単独行動はやめよう。絶対やめよう。ろくな事がない。 力の限り心の底から微塵も隠す様子も無く脳内で叫んだ。 何であんたらココにいんの! 当然、声なき声のその問いに返される答えは、ない。 next (07/3/23)修正