エア・ギア夢主 in 咎狗の血
瞬きをしただけ。
そう、俺がした行動はたったのそれだけだった。他に何をした訳でもない。ありふれた動作の一つ。
けれどそれが世界を暗転させる行為だったと、一体どこの誰が想定したり予想したり出来るだろう
か。
俺は一度閉じた瞼を再度押し上げ、もう一度視界をシャットアウトしたが、飛び込んできた光景は
内心の願いとは裏腹に全く変化が無かった。見渡す限りの廃墟。まるで今にもウイルスに感染した
ゾンビが飛び出してきそうな・・・・・・有名なホラーゲームを連想させる光景がそこにはあった。
どこにも生命が無いと思われる、かつて人が住み生活していた痕跡の残る街並み。
けれど、よくよく気配を探れば近くではないものの、自分以外の何かがいる事が分かる。
ここはドコなんだとか何が起こったのかというよりも、俺はむしろこの雰囲気に肝が冷え切ってい
た。
い、いや、勘違いをしないでくれ。俺はゾンビとかは別に怖くない。
あれはぶっ倒せば取り敢えず危険は無くなるんだからいいんだ。強制的にノックアウトしちゃえば
後は追いかけてこないからいいんだ。
でも幽霊はどう対処しろっていうのさ―――!!?
絶望的な想像に本能がすぐさま現場から離脱せよと指令を送る。
俺はそれに逆らう事も異議を申し立てる事もなく、さっさと足を動かした。もう走り出したといっ
ても過言じゃない。だって現在進行形で全力疾走してるもん。
はははは、怖いんだよ悪いか―――!!!
途中何度か人の横を通り過ぎたけど、全部無視して走る事だけに専念した。
それは早くこの場から立ち去りたい一心からだったが、今はそれを後悔している。道くらい聞けば
良かった。進めば進むほど迷い込んでいってるような気がするのは、俺の思いこみだろう。そうに
違いない。走れば走るほど複雑な路地に入り込んでいる気がするのは俺の思い違いの何でもない、
ハズだ。
一向に開けない道に、俺は焦りを感じながらも足は止めなかった。
けれどその行動こそが間違いだったようで、がむしゃらに走っていた俺には元いた場所がどこだっ
たかすら覚えてない。
やっちゃったー、感がたっぷりだが、俺に残された選択肢は前に進む事しか無いのが現状だった。
戻りたいのは山々だけど、戻り方が分かんないって致命的だよな!
から笑いをして無理矢理気分を浮上させよう作戦は失敗に終わり、とうとう俺は足を止めた。
ダメだ、混乱した頭では解決策が何も思い浮かばない。
闇雲に走ったってそれが解決に至る訳でも無いとようやく悟った俺は、ひとまず気持ちを鎮める事
にした。
ところが、その試みはさあ落ち着くぞ、と意気込んだその一瞬後に脆くも儚く崩れ去った。
ぎゃああああっ、と野太い悲鳴が人気のない廃墟の街中を疾走したのである。
うっかりそれを耳に入れちゃった俺は、よもや本当にバイオハザートか!? と身構えた。
一つ、また一つと悲鳴が上がり、恐怖で竦んで動けなかった俺の元に、新たな音源が響いてくる。
・・・・・・それは、明らかに俺の方へ近付いてくる足音に相違なかった。
勘弁してくれ、何で見知らぬ廃墟で迷子になった挙げ句、こんな恐怖体験をしなくちゃいけないん
だ。さっきの悲鳴だけでもう俺の心臓は十分過剰に運動したし、俺の寿命だって確実に減ったよ。
だからこれ以上のドッキリはいらないホラーもいらない何にもいらない、だから俺に安心をくれ―
――!!
何コレ何の嫌がらせだよ、正面からならともかく背後から足音って何だよそれ! 振り向くか振り
向かざるべきか俺は究極の二択を迫られてるよデッドオアアライブだよ、逃げるなんて選択肢足が
震えて無理だよこんちくしょー!!!
ところが、人間っていうのはどんなに内心で葛藤して行動を決めかねていても、咄嗟の反応という
か、反射的なものがあるわけで。
一際大きく響いた硬質な靴音に煽りを受けて、俺は背後を振り返ってしまった。
路地の角を曲がり、俺の前に姿を現したのは・・・・・・・・。
金髪の少年だった
黒いコートを着た男だった
------------------------------------------
(08/05/28)