→ 『金髪の少年だった』


俺は運が良い。 あの生死の境目で出逢ったのは、リンという少年だった。 彼は最初こそ鋭い目で俺を見てきたが、胸元を見てその表情はなりを潜め、代わりに俺に色々と質 問をしてきた。 いくつか問答を繰り返すうちに、話が長くなりそうだと察したリンは、行きつけだというバーに俺 を案内し、そして俺に色々な事を教えてくれた。 ここはトシマという場所で、現在ここではイグラと呼ばれるゲームが行われている。 ゲーム参加者は皆トランプをあしらったタッグプレートを付けるきまりで、俺にはそれが無かった からリンは警戒を弱めたらしい。 簡単に言えばタグを奪い合い、負かせた相手は勝者の好きにしていいそうだ。 それこそ殺す事や、俺の口からはとても言えないような事まで。何という世界だ。 「その様子だと本当に知らなかったみたいだね。お兄さん、コレに参加したくてここに来たんじゃ  ないの?」 何とも恐ろしい事を言ってくれる少年である。 俺がそんな(色んな意味で)危ないゲームなんかに参加したいと思うかぁッ! 「違う。そもそも俺は自分の意志でここに来た訳じゃない」 「・・・・・・誰かに、連れてこられたって事? それともここに行けって言われた?」 「どちらかというと、前者だな」 少なくとも俺はこんな所に自分の足で来た覚えは無い。まぁ、連れてこられたっていうのも多少語 弊があるかもしれないが。でも来たくて来た訳じゃないっていうのも本当だし・・・。うーん、何て言 うべきか。 気が付いたらここにいましたー、なんて、ただの馬鹿か記憶喪失だ。 もしかしたら部分的に記憶喪失になっている可能性も無い事は無いが、断言できる。 俺は何があってもこんな物騒な所になんか来ない。 「うーん・・・・・。おっさんだったら、何か知ってるかもしれないな」 「おっさん?」 「そ。トシマで情報屋やってる枯れたおっさんだよ。あれでも情報には長けてるんだけど・・・年寄  りのくせにあちこち移動するから捕まえにくいんだよね」 ったく、探すこっちの身にもなれってーの、とぶつぶつ言うリンは不機嫌そうに顔を潜めた。 相当苦労しているらしい。若いのに大変だな、少年・・・。 「まぁ、いくつかアテはあるにはあるけど。ハズす可能性もあるけど、どうする?」 え、何でそこで俺に聞くんだ? というか、その口振りだと、もしかしてその『おっさん』という人のいそうな場所に連れて行って くれるんだろうか。 え、マジで? 「いや、外見の特徴や名前を教えてくれれば、自分で探す」 有り難い話だけどさ、さっき思いっきり嫌そうな顔してたのに、付き合わせるのも悪い。 リンにはリンの都合だってあるだろうし、こんなに親切にこの街の事を教えてくれただけで十分だ。 「ひょっとして俺を警戒してる? 大丈夫だよ、お兄さんタグすら持ってないのに、俺が狙う意味が  無いもん」 なかなかに恐ろしい事を言ってくれる少年だ。さっきといい今といい、逞しい発言の数々にお兄さ ん涙がちょちょ切れそうだよ。 人の悪そうな笑みで俺を見詰め、挑発的に言うリンに、俺は首を振った。 「ここは相手を見つけたらすぐタグの奪い合いが始まる場所なんだろう。俺は、さっきお前が言っ  ていたようにタグを持っていないからまだいいが、タグを持ってるお前は違うはずだ」 狙われたら危ないでしょ。いくらこのゲームに参加してる強者だからってさぁ、危険だって分かっ てるのにそういう所に付き添わせるって、ちょっと・・・うん、俺の道理が許さない。 俺の言葉を聞いたリンはと言えば、さっきまでの悪戯っぽい顔は消え、きょとんとした顔で俺を見 ていた。 そういう顔は年相応だな、なんて思っていると、呆けていたリンが我を取り戻したのかハッとした 表情になって、変なものを見るような目付きで俺を見詰めた。 「お兄さん、俺が子供だからって侮ってない? これでも俺、トシマじゃかなり強い部類なんだよ。  お兄さん一人くらい守るのなんかワケないよ」 「・・・・・・・お前は、それで良いのか?」 だって俺、明らかに足引っ張るよ? 万が一があっても地理に疎いからリンに頼りっぱなしになると 思うし。 何となくリンは襲撃されても面倒だとか邪魔だとか言いながら、一人で俺を見捨てていくような子 には見えないし。 「お前じゃなくてリンって呼んでよ。別にいいって言ってんじゃん。それとも何、俺じゃ不満?」 まさか、とんでもない。むしろ逆。 ん? というように俺の顔を覗き込むリンは、まさか断らないよね? という雰囲気を醸し出してい る。 すごいな、こういう気遣いが出来る子って中々いないよ。 きっとわざとそういう空気を作って、リンが自分から言った事なんだから、何かあっても俺から頼 んだワケじゃないから俺の責任じゃないって言ってくれているんだろうな。 何て優しい子なんだ。こんな弟が欲しいぜ・・・! ここまで言ってくれて、そして行動で示してくれたリンに、俺は応えなければならない。 「分かった。じゃあ、その人の所まで連れて行ってくれ、リン」 俺の言葉に、リンの明るい笑顔が『是』と応えた。 --------------------------------- 続くかは不明。 (08/05/28)