※ 注意
この話は原作キャラが性転換しています。
そういうのが苦手な方はUターン。むしろ見たいという奇特な方はスクロールどうぞ。
最初の事件は密入国
中学を卒業し、さぁ大人へ近付き高校生へ・・・・・という過程も既にとっくの昔に終了した身にとっ
て、学生というのは呑気なものだと遠目に見て息を吐く。
電車に揺られ出勤し、定時に勤務を終える日があったら奇跡に近い、そんな生活サイクルを送る極
普通の社会人だった私が、どうしてこのような所にいるのだろう。
「東中学から来ました。よろしくお願いします」
朝起きたら母は若返って父は単身赴任前だからか家にいて、顔立ちの幼くなった私が鏡の前でムン
クしていた、などと、誰が瞬時に理解できるものか。理解できる人がいたらそれはちょっとお近づ
きになりたくない。
真新しい制服に身を包んだ私が、少し緊張気味でありふれた自己紹介の言葉を述べていたのは、決
して私が新しい環境になじめるかとか友達が出来るかとか勉強についていけるかとか、そういった
可愛らしい理由ではない。現実逃避だ。(出身校は自然と口から出て来た。そんな馬鹿なっ!? と
驚く余裕さえ今の私には無い)
だって、誰が信じられる? 私は夢でも見ているんだろうか。こんなフルカラーハイビジョンで細々
した設定までしっかりとしている、こんな現実的すぎる上に生々しい、これが、夢? リアルすぎ
て返って怖いわ。
唸る。往生際が悪いと言われようと構うものか。信じられないものは信じられない。というか、信
じたくないというのが本音だ。
現実的に有り得ない。若返る? どこぞの未来型ロボットが四次元空間から取り出した道具を使っ
た訳じゃあるまいし。ならばこの、20年以上を生きてきた私の記憶の方が夢だったとでも?
いいや、そんな訳がない。・・・・と、完全に否定出来る訳ではないが、違うと言える。
だがしかし、時間というものは個人の思考とは全く関係なしに進み、特に朝となれば現状を確認す
る暇さえ惜しまれる時間帯である。考察は強制的に打ち切られた。
あれよあれよと母には追いやられ、学生服に身を包んでいる方としては、学校へ足を向けるしか無
いではないか。まさか堂々と学校と逆方向へ進める訳もない。
幸運な事に同じ構造の制服を身に付けた学生を発見し、無事に学校へ到着する事は出来た。
出来たが、しかし。この状況。まったく笑えない上に流されているという事実が私を打ちのめした。
呑気に自己紹介なんかやってる場合じゃない・・・・・っ! 目を覚ませ、目を覚ますんだ自分!
やけくそと流れで何となく、で終わらせた私の自己紹介の後に、更に別の女の子が続いて自己紹介
する。それも終わり、私の思考ルーチンもいい具合にループし始めていた時。
ガタリと音を立てて一人の生徒が立ち上がり、教室に声を響かせた。
「東中出身、涼宮ハルヒコ。ただの人間には興味ありません」
・・・・・・ん?
私は何だか聞き覚えのあるフレーズを耳にしたような気がして、深みにはまっていた思考を無理矢
理急浮上させた。
いや、待て待て待て? 何かがおかしい。
聞き覚えのある台詞と今聞いた事に差違を感じて脳に待ったをかける。
確かに知っている台詞だ。だがしかし、それを言う声に違和感がとてつもなく伴い、思い出しかけ
ていた事と完全には一致せず、あやふやな記憶だけが甦る。
同時に心のどこかで育ち始めた嫌な予感に、私は更なる疑問が湧き上がってくるのを感じていた。
ねぇ、ちょっと待って。
「この中に未来人、宇宙人、超能力者、異世界人がいたら、俺の所まで来い! 以上」
しーん、と鎮まりかえった教室にその声は良く響いた。おかげで一字一句はっきりと聞き取る事が
出来る。だからと言って嬉しいかと聞かれればNOと答える。
誰もが呆然と口を噤み、そんな中、私はクラスのみんなとは違う理由で口を閉ざしていた。
だって、だって、こんなの。
有り得ない、の言葉が私の脳を埋め尽くす。
有り得ない。だって、私の知ってるさっきの台詞は、男の子が言った言葉じゃない。女の子が放っ
た言葉だ。そう、美少女と誉れ高くて何人もの男の子が玉砕し、スポーツも万能な、紛れもなく、
女の子が。
恐る恐る背後を振り返る。
私の記憶にあるのは、それを喋ったのは女の子で、その席の前にいるのは、良く言えばリアリスト、
悪く言えば冷めた思考を持った男の子がいるはずで。
どんな試験の合否発表より、どんなサスペンスのワンシーンより、緊張で高鳴る心臓を必死で抑え
て首を巡らせる。
そうして見た視線の先には。
ポニーテールの女の子の後頭部と、堂々と席に着いたカチューシャを付けた男の子がいた。
よし、夢決定。
私は清々しいまでにあっさりと、さっきまで脳内を駆けめぐっていた思考を放棄した。
けれど悲しいかな、現実とは常に無情である。
仮にここを夢だと仮定しよう。でもそれにしたっておかしな点が多すぎる。
これを夢だと談じた頭の一部では、未だ冷静さを保っているらしい箇所が思考を巡らせて相違点に
ついて論じ始めた。
あの台詞を言うのは『涼宮ハルヒ』であって『涼宮ハルヒコ』という人物ではない。そしてその前
の席に座っているのは男の子であって女の子ではない。
性別があべこべだ。それは私の知る限りの知識において存在しない。どれだけ符号をかち合わせて
も、それは真実だ。
小説、アニメ、CD、DVD、どれをとってもそこにいるのは、そこにいたのは。
(・・・・・・ここは、私の知ってる『涼宮ハルヒの憂鬱』じゃ、ない?)
嫌すぎる結論に、私の頭は今度こそ考える事を放棄した。
ねぇ、誰か、私をこの夢から覚まして下さい。
「おはよう、」
「あ、おはよ、キョン」
衝撃の自己紹介から数日。私は見事な社会適応能力を発揮していた。
何の事はない。ただの開き直りだ。
そう思えばこの異様だと思える日常も、そんなに気にならなくなっていた。投げ遣り? その通り。
いやしかし、結構な事ではないか。ハルヒコはやっぱりここでもキョンが気になっているようで、
良く話をしている所も見かけるし。私はといえば、そんな彼らに巻き込まれる事も無く至って普通
の、平穏な暮らしを送っている。良い事じゃないか。平穏って素晴らしい。
流石に授業中、ハルヒコがキョンの頭を鷲掴みにしてブリッジもどきをやらかした事は驚きだった
が、これも原作通りだと思えばそれほど気にする事でもない。
まぁ、痛い思いをしたキョンには悪いが。
「ねぇ! あんたからも何か言ってやってよ!」
それでも所々でこうした事に関わるのは、まぁ、最初の席順故と言っておこう。
ハルヒコの言動にうんざりしたらしいキョンが(うっかりキョン子と言いそうになって焦った事は
一度や二度ではない。いくら性別が変わったからってそれは無いだろう)がなる。
なんだよー、と口を尖らせるハルヒコは十分格好良いんだけど、20歳を過ぎた身には子供としか思
えない。実際に彼らはまだ子供なのだからあながち間違ってる訳ではないが、今頃の年齢の女子高
生が思う事ではないだろう。ちょっと遠い目になる。
しかしキョンが私の知る物語でも今という現実でも、相当気苦労しているのは知っているので、こ
のまま見捨てるには気が引けた。
まぁまぁと肩を怒らせるキョンを宥める。
「まぁ、確かにこう大々的に捜索してたら向こうから警戒されて表に出てこないかもね」
苦笑しながら言うと、キョンは少し期待とは違った返答に脱力したが、今よりは活動が大人しくな
るであろう発言に頷く。やけに力が入っているのは、それだけ振り回されているのと同意なのだろ
う。心底同情する。
「探されてる方は、目立ちたくないって思ってるのかもしれないし」
主に私の事だが、まぁそんな事知りもしないし分かりもしないだろう。気軽にそんな事を言ってみ
る。こんな言葉の中にひっそりと真実が隠れてるなんて、某情報統合思念体くらいしか分かるまい。
「ほら、涼宮君も駆けずり回るのはいいけど、目を離してる隙に何かが起こってる可能性だってあ
るでしょ? たまには油断させて尻尾を掴むのもいいんじゃない?」
そう簡単に尻尾を掴ませてくれるかは不明だが、少なくともこれでキョンの苦労も減るだろう。
ただそれを考慮しての発言だったのだが、どうやら相手にとっては違った意味で取られたようだ。
「へぇ! なかなか知略的な発想だな! なるほど二手に分かれるのか、効率的でよさそうだ!」
何故だかやる気を見せる涼宮ハルヒコ(♂)に、引きつった顔をするのはキョンと私だ。
え、そこ、やる気出すトコ?
「そうと決まれば早速グループ分けしないとな! なぁ、お前・・・・・えぇと何でもいいや。当然お前
も参加だからな! 今日の放課後、我がSOS団の部室に集合するように!」
「・・・・・・、・・・・・・・・・え?」
「だっ、お前、ハルヒコ! 何ちゃっかりを巻き込んでんの!」
良く言ってくれたわ、キョン。心の声を代弁してくれた彼女にエールを送る。
けれどキョンの話を聞かないのはこっちも同じだったのか、涼宮君は至って普通にスルーした。
ねぇ、私の戸惑いも意見も無視ですか。
涼宮ハルヒコは至ってマイペースに事を進めていた。いつの間にやら私とキョンは置いてけぼりを
くらって走り始めたハルヒコに追いつけない。
「あん? 名前、って言うの?」
「え、あ、はい」
普通に答えちゃったよ!
肯定した私の答えに満足したのか、涼宮君は宜しい、とばかりに笑んで高らかに宣言した。
「良し、! お前SOS団の団員その五に決定な!」
「だから勝手に決めてんじゃないって! ハルヒコ!」
キョンが尚も私の心の声を代弁してくれているが、私はそれどころじゃなかった。
え、今、何て言ったこの人。団員? だ、誰が?
聞いてはいけない言葉を聞いてしまった気がして、固まる。
「良し、そうと決まれば今日は新しい団員の入団を祝う、歓迎パーティだ!」
「だからアンタは人の話を聞きなさいってばッ!」
いつもの光景、いつもの応酬。そこにいつもはいない私という呆然と佇む人影が一つ。
ぎゃいのぎゃいのと騒ぐ教室の一角で、私は自分一人だけがどこか遠い所にいるかのような錯覚を
覚え、眩暈がした。
ねぇ、誰か。
私にこの物語のあらすじと結末を教えて下さい。
遠くから聞こえる二人の声を耳にしながら、私は思考を明後日の方向へ飛ばし、誰に言っているの
か自分でも分からないヘルプを発信したが、当然それに返ってくる声は無かった。
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やっちゃった。まぁプロローグはこんな感じ。
絶対需要がない、書く人だけが楽しい話(もはや何度目か分からない)
キャラの口調、分からん・・・・。
(08/03/26)