基本的に私は暇人である。まぁ多分それは私がこれといった仕事をしていないからだと思うが。
試しに作った装飾品がバカ売れしているのは知っているが、まさか貝殻という貝殻を取り尽くす訳
にはいかないので、結局働く事はしていない。
そんな生活に終止符が打たれたのは、この夢を見るようになって十日後の事だった。
「湛快さーん、この報告書はこっちで良いんですよね?」
「おう。あ、ついでにコレ頼めるか?」
「了解です。あ、これ終わったんで次はそれ、やって下さいね」
「げっ、まだあんのか」
「あるんです」
山のように積み重なった報告書の一角を指で示し、にっこりと満面の笑みで言うと湛快さんはがっ
くりと項垂れた。水軍のトップも楽じゃないんですね。大変ですね。
「・・・・・・・・・・・・他人事みたく言うなよ」
「他人事ですし」
ははは、そんなまさか重要事項を記したモンを私が処理しちゃマズイでしょー。
だから頑張って下さい湛快さん。応援と手伝いだけはしてあげます。
やる気出して下さい。ファイト。
「だってなぁ・・・・・・。あぁもう」
「そんな嫌そうな顔しなくても。ていうかそんな小難しい事書いてあるんですか?それ」
「ああ、見てみるか?」
「え。いいんですか」
好奇心で尋ねれば意外にも気の良い・・・・・というか軽い返事が返ってきた。
それで良いんだろうか熊野水軍頭領が。まぁ細かい事は気にしないでおこう。うん。
文机に座る湛快さんの後ろに回り込み、手元をのぞき込む。現代のように印刷された文字とかじゃ
ない、筆で書かれたそれに視線を落とす。最初はそれこそミミズがのたくったようなそれに解読不
能だったが、今は何とか慣れて読めるようになった。いや、暇すぎて暇すぎて本を読むしか無かっ
たっていうのが事実なんだけど。
つらつらと読み進めていく途中、ん?と眉を潜めた。
そこには補充しなきゃいけないものだとかその数とかが書いてあり、その合計を導き出したと思わ
れる数字に目が留まる。何と言うか、引っかかるというか、ぶっちゃけ数が合わないのだ。書かれ
た計算と私の暗算が。訝しんだ私に気付いた湛快さんが、どうした?と首を巡らせる。
「ああ、湛快さんちょっとこれ見てくれます?」
「ん?何かあったか?」
「これ間違ってると思うんですけど。私の間違いじゃなければ」
「・・・・・・・・・・・・何?」
「これは31ではなくて、32じゃないですか。ついでにここはこれだと効率悪いと思いますよ」
指さした所々で訂正と指摘を告げると、湛快さんはひどく驚いた顔で私を凝視した。
それに首を傾げてどうかしました?と尋ねると、湛快さんはひどく驚いた声で問う。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・お前、算術が出来るのか?」
「はい?」
さんじゅつ?
さんじゅつって、算術?
そりゃあ小学校程度の計算なら高校生の私が解けないはずもないですよ。
ついでに言えば数学は大得意科目です!
で、それが何ですって?
それから私が「小学生も分かる○○シリーズ」なる教育本を読破し、
それを基にヒノエや敦盛、果ては弁慶までをも交えてそれらの教育係に就任するのは今から数時間
後の話。
(05/12/11)
(06/01/06)加筆・修正