かくて縁はつながり
「・・・・どこにでもこういう輩はいるものね」
「ああ!?何言ってんだテメー。いいからこっち来いっつってんだよ!」
「何で。さっきから嫌だって言ってるじゃないの。それに私がアンタの言葉を聞く必要性もないし」
「何だと!」
ああ煩い。
ちょっと市に出てきただけなのに、なぁーんでこんなのに絡まれないといけないのかしら。
ていうかこの人達よっぽど暇人なのね。働きなさいよ。
「いい気になってんじゃねぇぞ、この女ッ!」
こちらの態度の苛ついたのか、ギシ、と骨が軋む程強く手首を掴まれる。右手に抱えられていた野
菜類が、ドサッと地面に落ちた。
あーあ、野菜痛んじゃうじゃん。折角新鮮なの買ってきたのに・・・。
非難を込めて手をねじり上げた男を睨むと、それが気に障ったのか男はますます不機嫌を露わにし
た。醜く顔を歪ませ、けれど腕を捕らえた事で優位と見たのか、下卑た笑みを浮かべる。
不愉快だ。
私は不細工に近付きたいなんてこれっぽっちも思わない。
不快さを少しも隠さず、手首を捻り上げる男を強く睨んだ。
「放せ」
あー・・・、手首絶対赤くなってる。どうしよう。ヒノエは目聡いからすぐ気付くだろうなぁ。そした
ら何があったかを一部始終説明しなくちゃいけなくなるし。うわ、めんどクサ。しかもこいつ手ェ
放さないし。
はあ、と溜め息を吐いた。
ああもうホント。
「っこの女・・・ッ!」
ウザったい。
ドガァッ!!
叩きつけるような大きな音が、市の片隅で轟く。
仰向けで地面に横たわり、土埃にまみれた男は、自分の身に何が起こったかを理解する前に気を失
っていた。仲間の男達はそれを見て一様に顔が引きつる。目の前で起こった光景が信じられない様
子で、誰もが呆然としたまま動かなかった。
「まったく・・・手間をかけさせてくれたわね」
パンパン、と着物に付いた埃を払い、地面に伏す男を一瞥する。しかしそれもすぐに興味が失せた
のか、今度は自身を取り囲む男達を射抜いた。鋭い眼差しに男達は竦み上がり、冷たい何かが背筋
を這う感覚がゾワリと肌を粟立たせる。
先程男を見事にのしたは、冷ややかな目で男達全員を見渡した。
シャラリ、と髪飾りが細く鳴る。
「これ以上やるって言うのなら・・・・・私も、容赦はしないわよ?」
それはつまり、これ以上不快な思いをさせるつもりであるならば、次は手加減無しで叩き潰す、と
いう意味であり、最後通告。
「逃げるもよし。でも向かってくるんなら半殺し程度にはするわ。仕方ないわよね、自己防衛の為
だもの。・・・・・・さて。
――――――――覚悟はよろしくて?」
にっこりと笑顔付きでそう言えば、男達は情けない声を上げて一目散に駆け出していった。
それはまさに蜘蛛の子を散らすが如きの逃げ足っぷり。
「あーやっと静かになった。さぁて、さっさと帰りましょうかね。ヒノエがうるさそうだし」
今日の夕餉は私がつくる事になっている為、今日は足りない材料を買い付けに来たが先程それは阻
まれてしまい、冒頭に至るわけなのだが。
「まさか、つまみ食いとかしてないでしょうね・・・」
が作る、と聞いたヒノエはそれは喜んで、危ないからと言っても台所、というかの傍を離
れようとしなかった。最終兵器、弁慶でどうにか追い払う事に成功したが・・・ヒノエめ、私がいない
間にこっそり侵入してそうだ。早く帰ろう。
荷物を抱え直して、足並み軽く家路へ急いだ。
後日、外出する度に強面の男達から顔を見るなり頭を下げられて、
えらく尊敬の眼差しで挨拶などされるのは・・・また別のお話。
(05/09/06)
(06/01/06)加筆・修正