「え、じゃあさんも未来から来たの?」
「うん、まぁ、何でだかね・・・」
「つーか制服着てんだから見りゃ分かるだろ、あかね」
「む。天真君、それって私が馬鹿って事?」
「普通は一発で分かるモンだろ。ついでに馬鹿とは一言も言ってないぞ、俺」
「う、うぅ~~~っ!く、悔しいぃ~~~!」
「せ、先輩落ち着いて・・・」
・・・・・・えぇと。
うん。仲良いのは分かったから、少し落ち着こうね。
じゃないと話、進まないから。
唐突に去った日常へ 2
「じゃ、改めて自己紹介。です。よろしく」
「短いなオイ」
「必要最低限の要点おさえてればいいんじゃない?じゃあ、質問ある人、挙手」
「ハイ」
「はい、あかねちゃん」
「はい、えっと。さんは高校生ですよね?もしかして先輩ですか?」
「あぁうん。一応高三。来年大学生になる予定の受験生」
だけど飛ばされちゃって推薦確実だったのに行けそうになくてちょっとショックなのよねぇ。今ま
での苦労が水の泡?て言うかこの会話この世界の人達には通じないんじゃないかしら。現にあちこ
ちで疑問符飛ばしてる人大勢いるし。そうだなぁ、彼らに分かりやすい説明をするなら、
「年齢で言うと18よ」
そう言うと不思議そうな顔をしていた面々が納得したように頷いた。こういう時説明に困るのよね
ぇ。言葉が通じてる分まだマシなんだろうけど。もどかしいなぁ、と思っていると遠慮がちに眼鏡
を掛けた男の人が手を挙げた。律儀に挙手する辺り、素直というか何というか。面白いなぁ。
「あの、宜しいでしょうか」
「はい、どうぞ」
「異世界からいらしたというのは、本当ですか?」
「っ、鷹通さん・・・・!?」
「おい鷹通、お前疑ってんのかよ」
男の人の質問の内容に、弾かれたように反応する現代っ子二人。一人は声を荒げこそしなかったも
のの、困惑気味にその男性を見やった。他にもハッとする人はいたが、それは憤りの類ではなく純
粋な驚きと疑惑の可能性。だけど怪しく思うな、という方が無理な話だ。この場合。身を乗り出し
て非難の目を向ける二人を片手を挙げて制し、口を開く。
「落ち着きなさい、二人とも。鷹通さん・・・でしたっけ?その人の疑問は至極尤もよ」
「でもっ」
「いいから。そもそもこんな非常識な話を真っ向から信じるなんて難しいし無理があるんだし。
て言うかそんなあっさり信じられちゃこっちが反応に困ると言うか」
「何故です?」
私はその問いに肩をすくめて苦笑した。困惑をビシビシ感じてるけど今は無視。
「だって私自身信じられない出来事な訳だし。納得出来るかは別として、理解するにはあまりにも
馬鹿馬鹿しいっていうか作り話みたいだし。いきなり異世界とか未来人とか言われてハイそうで
すかとすんなり頷けるかと聞かれれば答えは否よ」
だってそれが、普通の反応であり抱く思いなのだから。こんな非常識で信憑性も低くて現実離れし
た事を、ハナから肯定する人なんてそうそういない。むしろいたらその方が心配だ。何も考えてな
いか底抜けのお人好しか。まぁ信じてくれるに越したことはないけど。
「でも私にとってはそれが事実で現実。イヤでも受け入れなければこの先生き抜く事は出来ないし。
知り合いもツテも家も住所もそこに私が存在する証すら無い、そこの常識すら分からない。私だ
って信じたくないけどね心底。第一これから苦労するの分かりきってるのにそんな面倒な事、」
やってられないっつーの。
一息ついて眉をしかめた。
つらつらと語ったが、それを言う事で自分のやらなければならない事の多さに嫌でも自覚させられ
る。以前似たような事態に陥った時、そこでそれなりの処世術や生きる方法は身に付けてきたが、
しなくていい苦労をもう一度位置からしなければならないのはため息が出た。
「だから、信じられない気持ちになるのは自然な事だよ」
「でもっ、なら、それは私たちだって同じなのに・・・・ッ」
「私は、何かの役目を持ってる訳じゃないから」
「そんなの理由になるかよっ!」
「なるでしょ。あかねちゃんは、神様の力を持つ神子さんなんだから」
そうでしょう?とにっこり微笑めば、鷹通さんは驚いたように目を丸くして息を呑んだ。いや、神
様の力とか神子だとかよく分かんないんだけども。でも大雑把に言えばそういう感じの事をやって
るのがあかねちゃんだという事は、先程教えて貰った。否定しないという事は概ねそれは合ってい
るんだろう。鷹通さんは一気に落ち込んだような、悔やむような表情になって視線を落とした。
「・・・・・・・・すみません」
「いや謝る事じゃないと思うよ」
彼は彼の役目を果たそうとしただけだ。(そこら辺も簡単に説明して貰った)そこに非は見られな
い。むしろいい心がけだと評価しているくらいだ。非難が向けられるのを分かっていて、それでも
彼は彼の努めを果たすべく行動したのだ。その場の情に流されずそうできる人間は少ないだろう。
成る程、人選は間違ってないという事か。感心して鷹通さんを見る。うん、やっぱこの人面白いわ。
吊り上がりそうになる口角を必死で押さえ込もうと顔の筋肉を引き締める。いや、ヘタしたらニヤ
ついちゃうからね。いくらなんでもこの雰囲気でそれは無いよね。だけどそれが他の人に緊張と見
て取られたのは、・・・・・・・・・・・・予想外だった。
「ふざけんなよっ、確かにコイツは訳わかんねぇトコばっかりで信用できねぇかもしれねぇけどな!
でもお前コイツが一人ぼっちで座り混んでるの見た事あるか!?ここが何処かも知れねぇで肩震
わせてたコイツを見た事があるのかよ!?胸糞悪ぃ、これだから貴族の連中は嫌なんだッ!!」
心底怒ったように、自分の事のように怒りを露わにするイノリにその場のメンバーは彼に釘付けに
なった。こういう時、真っ先に彼は不確定要素を排除しようとするのに。しかしイノリはそれとは
逆に、彼女の味方に付いた。疑う事こそ悪だと言うように鷹通に噛み付いている。あの頑ななイノ
リをこうまで動かした少女はその援護射撃に目を丸くした。
が。
(イノリ―――――――ッ!!!)
オイこら少年!いつどこで私が目から水を出したと言うのかね!確かに震えていたけどね、それは
怒っていたからであって悲しかった訳じゃなかったんだがっ。そんな風に言うと誤解されるってば。
それまるで私が不安のあまり泣き出したように見えるぞ。みなさーん、誤解ですよー。イノリが勝
手に言ってるだけですよー。・・・・・・だからそんな目で見ないでッ、誤解だからそれ!
こりゃ早めに訂正しないと後々自分的にマズイ事になると、私は慌てて仲裁に入った。
「イノリ、確かに困ってたのは事実だけどいらぬ誤解を与えないように。誰が泣くか」
「え?」
「違うのか?」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・やっぱり誤解してたかッ!
「違う。やり場のない怒りを発散させて肩に力入ってただけだから。それよりイノリ」
「な、なんだよ」
「庇ってくれてありがとう。でも次に余計な事言ったらげんこつだからね」
「な・・・!?」
「という訳で鷹通さん、貴方が疑いたくなるのも尤もなんですが、
私が嘘をついて得をする事がない事も考えてみて欲しいのですが、どうでしょう」
「・・・・・・・・・そうですね。私が浅はかだったようです。ご無礼をお許し下さい」
「いえ、お気になさらず」
にっこりと笑って首を振った。まだ若干の疑問はあるようだが、少なくとも敵意が無い事は分かっ
てもらえたらしい。最悪衝突もあり得るかな、と思っていたのでちょっと意表を突かれたが。まぁ
こんな恰好じゃねぇ。信じない訳にはいかないか。
「あー、何か疲れた。異常に」
「私も・・・」
「情けないぞ若者ー」
「って何で本人至って平気な顔してんだよッ?」
「んー、慣れ?」
「いや疑問系で答えられても・・・」
はらはらと見守っていた周囲の面々も、ひとまず落ち着きを取り戻した空間にホッと息をついた。
うん、何か無駄に緊張感漂ってたしねぇ。
しっかし・・・・・・・・・改めて思うけど、なに、この美形集団。煌びやかな雰囲気漂う公達に美丈夫な
武士に控え目だけど優しそうなお坊さん。みんな若いし何より超美形。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・ホスト?
いやだってここまで美形が揃うといっそ圧巻と言うか。眼福には違いないんだけどぶっちゃけおか
しいよ。イノリがこの屋敷に異世界から来た私を連れてきて、責任者がこの人達に召集かけたらし
いけど。責任者からしてまだ小さい女の子だし、集まった人も役職がバラバラ。名前だけは教えて
貰ったけど、実際この人達っていうかこの集団何やってる人達なんだろう。あかねちゃんは救い主
みたいな人でこの人達はその護衛なんでしょ?組織にしたってこうまでバラバラだと統制取りにく
くないのか?それとも顔だけで選んだのか?疑惑の目を(と言うか変な目を)向ける私に、あかね
ちゃんが可愛く笑って首を傾げた。
「ねぇもしかして、さんも龍神に喚ばれてここに来たんじゃないですか?」
「へ?」
にこにこと微笑むあかねちゃんに、あ、と口を開いた現代っ子二人がこちらを向く。
イノリだけはその可能性を考えなかった事もないようで、普通に目を向けていた。どうなんですか
?と身を乗り出すあかねちゃんに上半身を仰け反らせ、眉をしかめる。いや、喚ばれるも何も、た
だ転んで視界がブラックアウトしたらここに来てました~的な流れだったんだけど。丁度一人だっ
たから他に人の姿は見なかったし、
「ここに来る前もその後も、誰の声も聞こえなかったけど?」
つか龍神て何。
言うと、それまでにこにこと笑顔だったあかねちゃんの表情が固まった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え。ええぇ――――!!?」
え、何っ!?何でそこで叫ぶのあかねちゃん!?
幼なじみ君出番だ、通訳してく・・・・・・・・・・・・駄目だ、コイツも呆けてやがる(ガラ悪)
「あかね、ちゃん?」
そっと名前を呼ぶ。
が。
「えっ、ど、どういう事!?私たちと違うの!?えッ!!??」
・・・駄目だ。パニックで周りが見えてない。
嘆息して収拾がつきそうも無い挙動不審なあかねちゃんの肩を掴み、正面から見据える。
「あかねちゃん、取り敢えず落ち着いて。はい深呼吸ー。吸ってー吐いてー」
すー、はー、と素直に深く呼吸するあかねちゃんの背をリズムを付けて叩き、混乱にストップをか
ける。数回それを繰り返すと呼吸も混乱も落ち着き、恥ずかしそうに頬を染めながらも驚きは消え
なかったようで。
「さん、龍神に喚ばれて来たんじゃないんですか?」
「誰かの声に導かれてだとか、そういうのじゃなかったわ。そもそも龍神なんていう存在自体知ら
ないし」
「でも、俺達と同じ所からここに飛ばされたのは間違い無いんだろ?」
「そうね。飛行機が空を飛んで自動車が道路を走りネオン煌めく都会が元いた場所だったならそう
だと思う」
「だよな」
同郷出身じゃなければ到底答えようも無い単語をズラリと並べ立てると、
案の定ちんぷんかんぷんの人間と違い天真君と詩紋君、そしてあかねちゃんはこくりと頷いた。
流石にチューブの中を走る車などという文明には至っていないが、進み具合は同じの様だ。
「じゃあ、あかねちゃんみたく神子だとか、八葉とは関係なく飛ばされちゃったのかな?」
「? はちよう?」
おーい、また出たぞ訳分からん単語。もういい加減この状況から逃げたくなってきた・・・・・・現実逃
避まんせー!なに、もしかして訳ありなのあなた達。救いの人とか聞いた時点でもしやと思ったけ
どさ。どうしよう。すんごく聞きたくないけど(面倒事の気配がぷんぷんする)ここまで来たらも
う腹括るしか。
多大な躊躇の後次々と飛び出してきた意味不明な言葉の数々を尋ねるべく、今度は私が挙手をして
ぐったりと言った。
「相互理解の為に、まずあかねちゃん達がここに来るまでの経緯を教えてくれる?」
どうしよう。
もしかしたら事態は私が思っていたよりも厄介なのかもしれない。今日は厄日だ、絶対。
嫌な予感をひしひしと感じながら、諦めるには少々手強い現実に冷めた色を浮かべた。
(05/12/03)
(06/01/06)加筆・修正