郷に入っては


体が小さくなって父さんの養子になり、戸惑う事が増えた。 例えばお手伝いさん。部屋の掃除とか身の回りの一切をささっとやってくれるもんだから、恐縮し てしょうがない。社会に出て一人暮らしをしていた俺からしてみれば申し訳ない気持ちでいっぱい になる。 まぁそれがお仕事なんだからって言われればそれまでなんだけど、俺が散らかしたものを他の人に 片付けさせるっていうのがどうも・・・・・・でもお仕事を取り上げる訳にもいかない。 せめてお礼は言おうとすれ違ったり顔を合わせる時は言葉と態度で感謝の意を示すんだけど、最初 の頃は椎那しいなさんに注意された。普通雇い主はそんな事しないんだとさ。 でもお手伝いさんを雇ってるのは父さんじゃん? 俺が直接雇った訳じゃないんだから問題なんか 無いって屁理屈を言ったら、椎那さんは一瞬目を丸くして「やれやれ」って苦笑いしてた。 うっ、だってそれらしく振る舞えって言われたって、どうしても気が引けるんだって! ・・・・・・でも、父さんの息子である以上、それに相応しい所作を心がけないとダメなんだろうな。 しゅんとした俺に何を思ったのか、椎那さんは幾分表情を和らげて「他人がいる所ではしないよう に」と言った。 ・・・・・他の人がいない所ならいいらしい。 本当は全面的に禁止! って注意するのが正しいんだろうけど、俺の意を酌んでくれた椎那さんの 器のデカさに、俺は感激したね! スゲーよ、椎那さんってば漢だ! 兄貴って感じ? 格好いいぜ! あとは、マナー全般だな。身に付けておくべき教養ってヤツ? まぁ、無いよりはあった方がいいっていうのは分かってたし、立ち居振る舞いは社会に出て行く上 でも重要だしな。 ・・・・・・ピアノには苦戦したけど。ヴァイオリンに移行した俺の判断力には拍手を送りたいぜ。 スポーツは言うまでも無く、いかに普通の男子中学生レベルに近付けるかが難しかった。 技術を上げるべきところと抑えるべきところが極端な山と谷で疲労度は倍以上だぜ・・・・・・。はは。 たとえばサッカー。つい力が入ってしまえば、そこでボールの命は尽きる。 たとえば野球。ついついホームランを阻止しようとすれば、高跳びの世界記録が更新される。 一気に注目の的だぜアハハハハ、なんて呑気な台詞なんか吐けない。ああ吐けないとも。むしろ吐 いてたまるかとばかりに、俺は頑張った。頑張ったんだよ俺。 それでもドッチボールとか、俺の脊髄反射の真骨頂が発揮されるような競技はあったんだけど、考 えてみれば小学生とか中学生のレベルだからね。 念がこもった岩とか弾丸に比べれば何て安全なんだ! そんで語学。英語だけじゃなくてドイツ語フランス語イタリア語スペイン語ギリシャ語韓国語中国 語を目下勉強中。脳みそも若返っている事を願う。 実はその勉強をしてて、うっかり夜更かししちゃったから眠いんだよね・・・・・。ふふふ。 そんな日に限ってパーティなんてものがあったりするしね。財閥関係者が集まる懇談会みたいなも のなんだってさ。腹の探り合いとも言うらしいけど。 今こそ勉強したマナーの成果を見せる時だぜ! とばかりに俺は眠気を吹き飛ばしつつ根性でパー ティに参加した。父さんの子として恥じないように努めなきゃね。気合い入れろよ、俺! 初めて財閥のパーティに参加するという緊張感を、獅子奮迅の決意を持って乗り越えようと意気込 んだ俺だったが・・・・・・なに、この人の数。 豪奢な内装。心地良いBGM。一切がきらびやかで洗練された会場内は、まさに別世界だった。 人数による圧迫感は相当なもので、俺、はやくも気持ちが挫けそうですパパン。多すぎませんか、 一体何人いるんですかパパン! 「父さん」 「ん?」 「これにはどれくらいの人たちが参加している・・・・ん、ですか」 うっかり家での口調のまま言いそうになって、慌てて語尾に言葉をくっつける。 いやぁ、いくら話をしているのが家族相手とはいえ、他の人がたくさんいる会場内で素はマズイだ ろ、素は・・・・・・。 案の定、ばつの悪い顔をした俺を父さんは肩を震わせて笑いを堪えてるし! 父さん、声を出さないでいてくれるのは有り難いけど、その震えた肩とカーブした目がフォローを 打ち消してるよ! 恥ずかしくなって父さんから視線を反らすと、「ご、ごめんね。つい・・・・・」と謝られた。 うん、それもフォローっていうより追い打ちを掛けてるからね、父さん・・・・・・・。 「つい」って・・・・・・。 「ほとんどがウチと似たような大きさだよ。各分野に突出した財閥や、あるいは複数だったりする  けどね」 「そうですか・・・・・・」 いや、俺は財閥の規模じゃなくて、参加者の人数を知りたかっただけなんだけど・・・・。 少し俯いた俺に何を思ったのか、父さんは数回、頭をポンポンと軽く叩いた。気楽に行け、という 事だろうか。うん、無理。 挨拶だってするんだろうし、その為にはどれくらいの覚悟が必要なのかも分からない。先の見えな いゴールに挑戦する気分だ。 ・・・・・・この会場内にいるほぼ全員には、軽いものを含めて挨拶には行くんだろうなぁ。 あ~・・・・・気が滅入ってきた。来て早々なんだけど、帰りてぇ。眠いし。 「おぉ、櫻井くんじゃないか」 「西原会長? お久しぶりです」 「見かけん顔が増えているが、連れは息子か?」 「はい。といいます」 俺が現実逃避をしている間に、どうやら挨拶の相手1号がやって来たらしい。 やっべぇ、何を言ったらいいのか全然分からーん! ちょ、しかも相手の人めっちゃ偉そうじゃん! 威圧感とかすごいんですけど! 貫禄あるんですけ ど! 肥えてる腹とか特に・・・・・・・。 確実に高血圧か高コレステロールが原因で動脈硬化とか起こしそう、と思いながら、さながらハン プティ・ダンプティを彷彿とさせる人物を観察する。 っていうか視線がザックザクで怖いんですけどぉぉぉ!? 俺に何か用ですか会長ぉぉぉ!? はっ、もしかして俺に挨拶しろっていう催促か? し、しまった。父さんの子として恥じないよう にするっていう決意をしたばっかなのに! いや今からでも遅くない、男の根性をここで見せるん だ俺ー! ぐるぐると思考が高速回転したが混乱している場合じゃない。何だこれお嬢さんを俺に下さい的な 緊迫感と焦燥感。いやそれより挨拶だ、何て言葉を交わすか考える方が先だ俺! 「西原会長に櫻井さんではありませんか」 しかし考えあぐねていた俺に救世主が現れた。 タイミングを図っていたかのようなその声に、心の中でハレルヤ三唱。ありがとう名も知らぬ救い 人! くるりと視線を向けると、そこにはダンディな男性と、俺と同い年くらいの少年がいた。 知らない顔だったが辛くも救われた俺はホッと笑みを浮かべる。た、助かったぁ~。 「跡部くんか」 「はい。お久しぶりです西原会長」 「今回も息子を連れての参加かね」 「ええ、社会勉強になればと思いまして」 へぇ。こういうのに子ども連れで来るのもそう珍しい事でもないんだな。 跡部さんだったっけ? 今回もって事は前にも来てるって事だよな。うわ、小学生の時から参加し てたりすんのか。すげぇな。 尊敬の眼差しで少年を見ると、俺の視線に気付いたのかキリッとした目を向けられる。隙がない感 じがしてやっぱ生粋のお坊ちゃんって違うんだなとしみじみ思った。 ・・・・・眼光が思ったより鋭くてちょっとビビったのは、内緒。 感心していると少年だけでなく跡部氏も俺に目を向けてきた。内心でギクッと冷や汗を流す。 いや、だって何を言われるのかとか、こう、心構えといいますか。そういった準備が全くできてい ないんですけどちょっとぉ!? どうしようパーティは始まったばっかなのに。狼の群れに放り込まれた子羊の気分ですよジーザス! 魔獣の群れの方がまだマシだ! 逃げ切ればいいだけの話なんだから。でも逃げ場がないこっちの 方が状況的に俺はリタイア寸前! 「櫻井さん、そちらの少年は・・・・・」 「あぁ、跡部さんは初めてお会いするのでしたね。ご紹介します。息子のです」 「・・・・・お初にお目にかかります跡部様。お会いする事が出来て大変光栄に存じます」 咄嗟に何度も脳内でシュミレーションした台詞を口上に述べる。 緊張してやや早口になったのは見逃して。もう嚼んでたらどうしようとか悩んでる暇ないよ! 「様などと付けなくて構わないよ。見たところうちの景吾と同じくらいの年頃のようだね。今、い  くつなんだい?」 「今年で中学一年生になります」 「なら丁度同い年だな。学校はどこに?」 「立海大附属中学校に通っております」 ・・・・・・・き、緊張する。はやく終わってくれ・・・・!! 「説明するなら肝心なところが抜けておるのではないか?」 俺が跡部氏と(一方的に)緊迫した会話をしていた時、西原会長と呼ばれていた男性が割って入っ てきた。どうしたのだろうと目を遣ると、そこにはニヤニヤと笑っている西原会長。 え、もしかして俺が引け腰なの見破ってますか。 「何でも君は、櫻井くんの養子であるそうじゃないか。噂によるとどこの生まれとも知れないらし  いな。そこを櫻井くんに拾われた、何とも幸運な少年らしいぞ、跡部くん」 父さんの目が細められるのを感じた。そして、普段は滅多に怒らない・・・・というか、怒ったところ なんて一度も見た事がない父さんが、ピリピリとした空気を纏っている。 西原会長は俺を見下ろしているので今の父さんの表情は見えなくて当然なのだが、それにしたって 雰囲気が尖っているのに気付かないものだろうか。こんなにもハッキリとした怒気を現す父さんな んて初めてだ。 裏社会の人間に比べれば段違いのそれだが、ご立腹である事は確か。 父さん? 疑問を口にするより早く、展開はどんどん先へ進む。 「西原会長、それは・・・・・」 「今は私が、君の息子に話しているのだ、櫻井くん」 思わず、といったように口を開いた父さんを、有無を言わずにはねのけた西原会長。 え、なになに、ホントどうなってんの一体。 ぐっと言葉に詰まった父さんを、西原会長は鼻を鳴らして笑っている。 ・・・・・・良くは分からないけど、父さんを見下す態度をとっているという事は分かる。 今まで欲望にまみれた金と地位と権力を持つ腐敗した人間を何人と見てきたが、その空気を会長か ら感じて自然と眉間に谷が出来た。 剣呑な雰囲気に跡部親子はついてこれないのか、困惑した気配が漂う。 展開の様子を探っていると、ふいに西原会長がボーイを呼び止めて飲み物を手にした。 喉が渇いていたのか、と思っていると、その手が俺に向かって差し出される。 「っ、会長!」 「君も、曲がりなりにも櫻井財閥の子息なら、これくらいは当然嗜んでいるんだろう?」 その言葉と共に目の前に突き出されたのは、琥珀色に輝く液体。匂いからしてアルコールだろう。 それほど近くにいるわけでもないのに薫る匂いに眉を潜めた。 嗜む・・・・・もしかしてこういう場では、勧められた飲み物は必ず飲まなきゃいけないものなんだろ うか。結婚式とかでつげられるお酒を断っちゃ行けないよ、みたいな。いやあれは無理なら別に断 っても良いんだけどさ。 つか、いいのかよ会長。未成年にアルコール飲ませて。 「どうした、受け取らないのか。この私が直々に手渡したものだぞ」 やっぱり飲まなきゃいけないらしい。 まぁ、いいんだけどさ俺は別に。この体はまだ未成年だからこの一杯だけで勘弁させて貰うけど、 基本的に俺、酒には強いから。つか、強くなったと言うべきかな。 ハンターやってた頃、古代の遺跡とか発掘したり調査してたらさ、結構な確率でその子孫や先住民 族と遭遇するんだよ。で、「俺は怪しい者じゃないですー、調査がしたいだけですー」って意思表 示したら、ほぼ100%儀式に突入する。 儀式といっても、集落の代表者達と盃を交わすとか、そんなもんなんだけどさ。要するに酒の回し 飲み。これがまたキッツイ酒なんだ。日本で言うと焼酎をさらに度数高くした、ほぼアルコールな ものとか。自然のままで作るから濁りとかも結構あって、強烈。俺も慣れるまで時間がかかった。 それに比べたら今更、ウォッカだろうがウィスキーだろうがテキーラだろうが何でもない。 事態はよく呑み込めてないけど、その挑戦受けて立ってやろうじゃないか! 父さんみたいな良い 人を小馬鹿にするなんざ息子である俺が許さん! 「やはり捨て子というものは・・・・・・・」 「では、遠慮なく」 「っ・・・!?」 目の前にあるグラスを受け取って、一気に呷る。久々に感じる酒の味。喉を焼く感覚。液体に触れ たところから感じる熱。酒を口にしたと実感できる瞬間だ。 ・・・・・やべ、もっと飲みたくなってきた。あーもう、大人から子どもになると手が出せない嗜好品 が増えて困るよなー。あ、もう飲み終わっちゃった。 あっという間にグラスを空にした俺に突き刺さる、視線視線視線視線。 え、もっと味わって飲むべきだった? いやぁー、あはははは。つい。久しぶりだったもんで。 その場を誤魔化すためにニッコリと笑う。 「有り難う御座いました。非常に美味しかったです。さすが会長の審美眼にかなっただけの事はあ  りますね。香りといい味といい、まさに絶品でした。もし次回の機会を頂けました時は、その際  も是非お勧めのものをご紹介頂きたく思います」 やっぱ、こういう席で用意されてる酒は違うね。上品というか、高級感があるというか。 飲めてラッキー、と満足感に浸って言うと、西原会長は悔しそうに声を荒げた。 「フ、フン! 若造が図々しくも私に何かを乞うなどと、無礼にも程がある! 私はこれで失礼させ  て貰うぞ、気分が悪い!」 そう言い残してのっしのっしと離れていった西原会長を、ぽかーんと見送る。 ・・・・・・っていうか、グラス・・・・・・・・・。 !」 ! っとぉ、ビ、ビックリしたぁ! いきなり大声で呼ばないで父さん! 俺の心臓が破裂する! 「はい?」 「『はい?』じゃないよ、大丈夫かい? あんな純度の高いお酒を一気に飲むなんて・・・・・・!」 ・・・・・そういえば俺、まだ小学校卒業したばっかだったっけ。んー、でも今のところ眩暈も気分の 悪さも頭がぼーっとする感じは無いし、いたって平常だから問題は無いと思う。 あー、はやく大人の体に成長してぇ。 「あれくらいならまだ序の口です。欲を言えばもう少し高い方が好みなんですが・・・・・まぁ、悪く  はない味でした」 「・・・悪くないって・・・・・はぁ、まったく。いや、何ともないなら良いんだが・・・・・それにしても会  長は何て事を・・・・・・」 がっしと肩を掴んで心配そうに覗き込んできた父さんを「いや全然平気っすよー」とへらへら笑え ば、脱力した父さんは痛そうに頭を抑えた。 念で強化されてる体はそう簡単にやられたりしないから、大丈夫なんだけどな。まぁ確かに未成年 に飲酒を勧めるのは好ましくないよね。でもあそこで断ると変にまた口出しされそうだったし、そ れに挑発されたのは俺だったし。ゲテモノ料理を食えって言われた訳でもない。 肩を落とした父さんに、跡部氏が労るように声を掛けた。 「災難でしたね、櫻井さん。大丈夫ですか?」 「跡部さん・・・・・。えぇ、何とか。すみません、変な所をお見せしてしまいましたね」 やがて大人同士の会話が始まり、蚊帳の外に放り出された俺と跡部氏の息子の・・・えーと、景吾君 だったっけ? 間に入っていけない俺たち二人は、さながら母親の買い物に同伴して偶然会った母親同士の井戸端 会議に置いてけぼりをくらった子供のように突っ立っていた。会話もなく。うっわ痛い。空気が痛 いよ! この少年変に威圧感あるから余計に緊張する! あああ何を話したら良いんだこういう時! えー、本日はお日柄も良く・・・・・・絶好のパーティ日和で・・・・・・いやいやここ室内だし! 「ほら、」 「え?」 そこへ沈黙を破るように、言葉と一緒に何かが視界に割り込んできた。 突然現れた対象物にピントが合わず、一瞬呆ける。ぼやける視界が対象物をハッキリ捉えようと瞬 時に輪郭を鮮明に映像化し、それが透明な液体が入ったグラスであると認識して首を傾げた。 どうやら中身は水のようだが、意図が分からない。 「水だ。いくらお前が平気そうにしていようが、飲んどいた方がいいだろ。早く飲め」 ややぶっきらぼうに告げられた内容に驚いた。わざわざボーイを呼び止めて水を運ばせたのだろう か。大人ばかりの集まりに、水はあまり入り用な訳じゃない。ボーイが持つグラスのほとんどが酒 のはずだ。水を乗せて会場をまわるボーイなどいなかったろうに。 それでも俺を心配して水を手配してくれた。 何て気の利く中学生なんだ。これで小学校を卒業したばっかの年齢なんだよな。すっごー・・・・・。 紳士と言っても過言はないその行動に感激すると同時に感嘆を覚える。渡る世間に鬼はないって、 本当だ。まぁ中にはあの会長みたいな人もいるけど。 「ありがとう」 ホントは別に飲まなくても平気だったけど、ここは問答無用で景吾君の好意を汲むべきだ。俺自身 嬉しかったし。 お礼を言ってからグラスを傾ける。・・・・・こういう水も、お高かったりするんだろうか。 友好的に! と念じながら笑顔でお礼をいったおかげなのか、最初の頃よりは幾分か雰囲気が和ら いだ少年が口を開いた。 「あの狸相手によくやるな、お前」 「・・・・大した事はしていないよ」 まぁ、多少怒ってた所為で言い方はきつかったかもしれないけどさ。 でも差し出された酒を飲み干しただけじゃん? そんな特別な事はしてないと思うんだけど・・・・・。 「ハッ、良く言うぜ。あんな慇懃無礼な態度だったくせによ」 え・・・・・丁寧なようで実際は尊大な態度って、え。 一応波風が立たないように努めたつもりだったんだけど、あれでもダメなの!? うわぁぁぁぁぁ!! もしかして俺、父さんの顔に泥を塗りたくったのか!? マジかよぉぉぉ!? 俺の完全空回りだったの? そ、そんなぁ~~~!! 絶望のどん底気分を味わう俺に、跡部少年は悪戯っぽく笑う。 「まぁ、俺もスッキリしたけどな。あのジジイ、人にネチネチ嫌味ばっか言ってきやがるからウザ  ったいったら無いぜ。みっともなく会長の椅子に齧り付いてる寄生虫如きが偉そうに」 「・・・・・景吾君も、そういう経験が?」 「あぁん? 景吾『くん』だぁ? ンな固っくるしい呼び方じゃなくていい。景吾って呼べよ」 な、なんか一気に化けの皮が剥がれた感じになってませんか、景吾く、いや景吾。 言葉遣いがどんどん荒くなっていってますけど!? 「西原も前は勢いがあったが、今は下火で停滞してるからな。どうせ自分は落ちぶれていってんの  に跡部オレ櫻井おまえがデカくなっていってんのが気に食わねぇんだろ。負け犬のくせしてプライドだけ  はやたらと高いからああやって惨めに吼えるしかできねぇクセに。ハッ、だっせぇ」 言いたい放題だな、君。 余程嫌な事を言われたのだろうか。きつくなる眉間の皺と同時に鋭さを増していく言葉の数々に、 かける言葉を無くして口を噤む。 西原かいちょー・・・・あんた、どんな恨みを買ってるんですか一体。 「お前も氷帝にいれば、もっと楽しめただろうにな。つうか、何で立海なんだよ」 「・・・家から近いのが立海だったんだ。父さんに迷惑かけたくないし、行くなら近場の方がいい」 「・・・・・くだらなぇ周りの言動に怖じ気づいたってか?」 「違う。俺の意志でそうして欲しいって頼んだんだ」 これでも大変だったんだぞ。もっといい学校がある。遠慮なんてしなくていい。そんな事を散々言 われたんだからな。何だってみんなしてそんな敷居の高い学校ばっか選ぶんだか・・・・・・・。 明らかに入学金とか授業料とか高そうな所に、小市民の俺が行ける訳がないだろう!? だって生徒だって一般庶民じゃない子供の集まりだろ!? とてもじゃないがついていけない。 あんまお上品なのは性に合わないんだよ。高級レストランよりラーメンすすってる方が俺は好き。 「・・・・・・まぁ、交換生制度もあるしな」 今ボソッと言ったのは何ですか景吾君? よく聞こえなかった言葉に何と言ったか尋ねようとしたが、出鼻をくじかれる形で俺よりも早く跡 部少年を呼ぶ声がどこからか聞こえてくる。 「跡部さん!」 見れば何とも可愛らしく着飾った女の子がこちらに向かってきた。目に眩しく感じるのは装飾品に 反射する光の所為だろうか。それとも金持ちオーラだろうか。きっと両方だな。 どうやら景吾く、いや景吾の知り合いみたいだけど・・・・・・邪魔しちゃ悪いよな。うん。 そう結論づけた俺は足を一歩後ろに引いた。 「じゃあ、俺はこれで失礼する」 「なっ、オイ!」 「景吾は景吾で忙しいだろ? 俺は気にしなくていい。また機会があったら会おう」 多分パーティがあれば顔を合わせる事になるんだろうし。 それに、ねぇ? 彼女さんだか婚約者さんだかは分からないけど、男女の仲を邪魔しちゃ馬に蹴ら れるってモンでしょ。やぶ蛇出歯亀はさっさと退散しましょうかね。頑張れ若者! ・・・・・・外見上は、俺も立派な若者なんだけどね。何この子供とか孫の恋路を見守るお父さんお祖父 ちゃん的な心境。あー・・・・・・年だな。うう、本当なら俺も結婚とか考える年齢なのに。 もしこのまま恋愛をするとしたら、俺はロリコンの部類に入ってしまうんだろうか。 そんな事を考えながら、丁度跡部氏と話し終わったらしい父さんと合流し、緊張の挨拶回りをこな していった。だけど挨拶の度に相手方のお嬢さんをやたらと交際相手に薦められるのは何故? 年 頃のお嬢さんを紹介されてもなぁ。出来るだけ柔らかく断ったけど、ひょっとしてパーティの度に こんな遣り取りが繰り返されるんだろうか。いや、無理だって。だって俺、実質は30代後半にさし かかるおじさんと中学生だぞ? 普通に犯罪だよ。 逆に年上の女性を紹介されても、何だか知らないけど変な悪寒が全身に走るし。初めてだよ俺、女 の人の視線が恐ろしいと思った瞬間なんて。無力な草食動物の気持ちってああなんだろうか・・・・・。 色々と思う所が随所に散りばめられた、俺の初めての社交パーティはこうして閉幕した。 その後日、携帯に突然景吾からのメールが送信されてきた。 ベッドでくつろいでいた所に突然着信音が鳴り響くもんだから思わず跳ね起きちゃったよ。 まぁそれはいいとして。 『よぉ。オレだ。この番号登録しとけよ。それとお前のもよこせ。登録しといてやる。  次はオレの家に招待してやるから有り難く思えよ?』 ・・・・・・俺、君の家どこか知らないんだけど? --------------------- 未成年の飲酒は法律で禁止されています。 そしてパーティのしきたりとかルールなんてもの、神崎は知りません。これは全て捏造です。 ていうか未成年に酒を勧めるのも犯罪じゃ・・・・・。 性格悪いおっさんは何処でも誰にでも嫌われます。 櫻井パパを怒らせるくらいなんだから相当ですねー。肥えたおっさん書いても楽しくありませんが それがこてんぱんにされるのを見るのは好きです。気持ちがスッとしますよね! どSでごめんなさい。 (08/09/06)