青春の味は苦みから
さて、桜咲く季節、俺はめでたく中学一年生として新たなスタートを切った訳だが・・・・・・。
うん、基礎をもう一度やるって、結構面白い。けどやっぱり、大学を卒業して社会に出た俺には、
ちょっと・・・・・・うん。
言ったら現役のこの子達に殺されるから言わないけど。
それよりも俺は、おじさんに任されてしまったお手伝いの方が重要だ!
いや、勿論授業は聞いてるよ? やらなきゃいけない事があれば勉強を優先するのが当たり前。
じゃないと教師に贔屓して貰えなくなるからな! 腹黒い? ちょ、処世術と言って!!
何かあれば椎那 匠さんが俺の携帯に連絡を入れてくれる事になってる。
だから俺はポケットに携帯をいつでも常備して待機してる。授業中? 気にしない。
思考を明後日の方向へ飛ばしていると、ポケットが振動で震えた。
お、何かメールが来たみたいだ。
先生に見つからないように目線は黒板を、手はポケットを探ってぱかりと携帯を開く。
ちらっと見てみるとやっぱりメールが来ていた。
何が書いてあるのかな・・・・・っと。
・・・・・・、・・・・・・・・・え。
ええっ!!?
『2、3日くらい後をメドに、新しい製品のロゴを考えておいて欲しい、との事だ。
じゃあ、勉強しっかり頑張って下さい、様。
椎那 匠 』
「にっ・・・・・・・・・!」
2、3日以内だとぉっ!?
ちょ、マジでッ!? ロゴとかそんな、会社のシンボルマークみたいなものを、中学一年生の子供
に任せちゃうなよ父さん!
思わず声に出しちゃったから、隣の席の子が俺を訝しげに見てる。
あ、ごめ、騒がしかったよね。でも俺すごく驚いちゃって・・・・・ッ!
気まずくて視線を外す。うぅ、ろくに謝る事も出来なかった。授業終わったら改めてちゃんと謝ろ
う・・・・・・。俺、大人なのに・・・・・・。はぁ。
あ、黒板に問題文が書かれてる。写して答えノートに書いとかなきゃな。
かりかりと手を動かしながらも、俺の頭の中はロゴと隣の席の子に謝罪する事でいっぱいだった。
怒ってなきゃいいけど・・・・・・はぁ。
授業が終わり、開放感にクラスの子が騒ぎ出す。でも俺はちょっと緊張していた。
だ、だって心の準備が・・・・・ッ! いや、大人の俺がこんな事でどうする! 悪い事をしたらきちんと
誠意を持って謝罪するのが社会のルールってもんだろうっ!?
意を決して隣に目をやる。
すると相手も俺の事を見ていたようで、ばっちりと目が合った。
っきゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
どっきーん、と跳ねた俺の心臓は、見えない口から大絶叫。どっこんどっこんと動いてちょっと気
持ち悪い。う、こんなんじゃ駄目だ。落ち着けー、落ち着けー。鎮まれ俺の心臓!!
焦る俺に対して、相手の子も何やらあわあわとしていて視線をあちこちにやったりと忙しない。
え、俺が挙動不審になるのはともかく、何で君も?
首を傾げた時、何やらその子は難しい顔をしてきゅっと眉間に力を入れて口を尖らせた。次いでく
るっと俺の方を見て、真っ直ぐな目を向けてくる。
おぉ、まだ中学一年生なのに、すごい整った顔をした子だな、この子・・・・・。
などと、俺は至極どうでもいい考えを巡らせちゃったりして、うん。現実逃避ですよ・・・・・・。
だだだ、だって、明らかに「今から文句言ってやるから聞き漏らすんじゃねぇぞテメェ!!」みた
いな顔されちゃ、現実から目を逸らしたくなるってモンでしょぉー!?
なまじ顔が整ってるから、怒りの形相も迫力がね・・・・。早くもクラスメイトに嫌われるなんて、俺
って平穏な中学生活を過ごせるのかな・・・・・・。
「お、おい!」
「・・・・・・何?」
ハッ! まままま、まさか、ここは校舎裏に来いとか、ちょっとツラ貸せとか、そういう事ですか!
いやぁぁぁぁ心得てる! この子心得てるよ!!
末恐ろしい、この年でそんなもの会得してるなんて。
俺はちょっとした恐怖にひくりと顔が引きつり、上手く言葉を出せなかった。
だってすごい衝撃だよ、衝撃的すぎるよ・・・・・・。
「さっきは、サンキューな!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」
・・・・・・。
あれ。
何だか予想外の展開?
身構えた俺に降り注がれた言葉は、罵詈雑言でも脅迫めいた台詞でもなく、お礼の言葉。
え、聞き間違いじゃ、ないよね?
文句を言われるならまだしも、何でお礼?
「ぁ」
「そんだけだから! じゃっ!!」
いや待って、何の事だか俺に説明していってっ!!
言う間もなく、その子は自分の言いたい事だけ言い残して教室から去っていった。
えー・・・・・と。え?
俺は置いてけぼりをくらって、呆然と見えなくなった背を負う事しか出来なかった。
今時の子って・・・・・・分からない。
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あなたも(見た目は)今時の子だってーの。
(08/03/18)