日記ログ in ハリポタ リドル視点


ここホグワーツには珍しい、東洋人の教師がいる。 ほとんどがイギリス人の学校のなかにあって、その存在は少し目立っていた。 いや、少しではない。 リドルはいつものように自分の周りを囲む生徒に優等生の笑みを絶えず送り、その実頭では彼らと は別の人物に思考を巡らせていた。 あの東洋人の教師、確かに人種こそ珍しいのだが、際だつのはそれだけではない。 まるでその存在を感じられないのだ。 薄いのではなく、そのままの意味で目の前にいるのにそこにある存在として認識しづらい。 おまけに授業以外で滅多に会う事もないのだから、存在感が無い要因を余計に増やしてもいる。 そんな取るに足らない人間を、何故こうして気に掛けなければならないのか。 リドルは言いようのない不満感に苛立ちを覚えた。 が、それを表に出すことはなく、逆に笑みを張り付かせて内心を誰にも悟らせない。 それはすでに洗練され熟練した技術の一つになっていた。 誰に対してもリドルはそうだった。よそ行きの顔で当たり障りのない人間関係しか築かない。 自分の懐には誰も入れず、彼の世界は何者の侵入も許さない。 ある程度の成績を示しておけば、それは自然と周りに対する牽制と信頼をリドルに与えた。 自分の容姿が他人にどう見られるかくらいとっくに把握していたので、リドルの取った行動は極め て迅速だった。 リドルは自らの狡猾さを偽りの優しさへ、不愉快を笑顔に変えたのだ。 結果、優等生としてこなさなければならない頼まれ事や面倒事も引き受けなければならなかった が、そこは妥協した。 そこに人付き合いの良さも加えれば、完璧だが親しみやすい人間という虚像が出来上がるのだ。 けれど。 取るに足らない教師。単なる教員の一人。 そうとしか認識していなかった人物についてリドルが思考を巡らせていたのは、理由があった。 周囲がリドルの思惑通りに意識を操作されているのに、かの教師は一度もリドルに贔屓めいた事を しなかった。 別にリドルが嫌われているからなどという幼稚な理由からではなく、まるで興味もない様子で彼は リドルを見るのだ。 誰に対してもそうだったので、リドルは特にその行動を気に留めてもいなかったが、ある日転機が 訪れた。 その日、リドルはたまたま一人で廊下を歩いていて。上級生の男子生徒数人に絡まれた。 やれ調子に乗るなだの、痛い目を見なければ分からないのかだの、頭の悪そう案台詞がぽんぽん出 てくる。 半ば呆れた顔で、リドルは嘆息した。 「こんな事をしている暇があるのでしたら、ご自身を磨く努力をなさった方が余程建設的ですよ、  先輩方」 しかしというかやはりというか、上級生はリドルの言葉に逆上し、ついに彼らのウチの一人がリド ルの胸ぐらを掴んだ。 「ふざけるな! 気持ち悪い目の色してやがるクセに減らず口を!」 リドルの目は、まるで血を流し込んだかのように真っ赤だった。 鮮やかすぎてその瞳は本当に血を受けたのかと思うほどの、赤い色をしている。 それはリドルにしてみれば有り触れた罵倒で、そして何の捻りも感じられない中傷だった。 リドルが眉根を寄せると、馬鹿にされたと思ったのか胸ぐらを掴んでいた上級生は拳を振り上げた。 素直に殴られる謂われもないので、リドルが力任せにその腕を振り払おうとした時。 「なにをやっている」 ぎくりと揺れた上級生の後ろに、教師の姿があった。それはとても珍しい人の姿で、ある意味レア なんじゃないかと囁かれている、授業を行っている訳でもないのに生徒の前に姿を現した東洋人の 魔法使い、ホグワーツの教員であった。 「今すぐその手を放さなければ減点するが、どうする」 「・・・・・・・チッ」 舌打ちと共に、リドルの胸ぐらを掴んでいた上級生は乱暴にリドルを突き放した。 どん、と壁にぶつかってリドルは軽く痛みを覚えたが、減点をされたくないのか、上級生は逃げる ようにその場を後にした。 残ったのは、リドルと東洋人の教員だけ。 リドルは嘆息した。まだあんな下らない連中がホグワーツにいたとは。 疲れたように息を吐き出すリドルをじっと見詰める視線に気付いて、見られている本人であるリド ルは少し俯いた顔で眉を寄せた。 なんだっていうんだ。 緩慢に顔を上げ、渋々と教員に視線を合わせたリドルは、教師の双眸が己の双眸を見返している事 に気付いた。 ああ、なんだ。コイツもこの瞳が珍しいと、汚らわしいと喚くのか。 リドルがそう思って密かに身構えていると、教師はリドルの予想を大きく裏切った行動を見せた。 じっとリドルの両目を見詰めていたかと思うと、ふと口を開いてこう言ったのだ。 「Mr.リドルの目は、薔薇の色だな」 「・・・・・・・・・はあ?」 リドルは思わず声を上げてしまった。しまったと思うが、今更取り消せない。 いやそれよりも。 この教師は何と言った。聞き間違いでなければ、今ものすごーく鳥肌が立つ台詞を口走っていたよ うな気がする。むしろ歯が浮きそうな台詞と言い換えても。とにかく恥ずかし下もなく言いはなっ た台詞にリドルは愕然と自我を見失った。 「この先に階段があるだろう。実は普通に見ただけだと見つけられない抜け道が脇にあってな、  そこに咲いてた薔薇の色と同じなんだ」 それは、ひょっとして褒めているのだろうか。 リドルは引きつりそうになる頬を何とか抑えてを見上げた。 そんなリドルの様子に気付いているのかいないのか、目の前の教師は言葉を重ねる。 「Mr.リドルの目は、そこにある薔薇のように鮮やかで綺麗だな」 --------------------- 力尽きた。 ええ、分かってます、夢主がまるでタラシ、いやリドルを口説いているようだと。 夢主は「美少年=薔薇が似合うイメージ」を連想しているだけなので、深い意味は無いのですが。 ・・・・・・・リドルの場合は、どうなんでしょうね。 これ言われた時のリドルの心理描写は皆様のご想像にお任せ(丸投げ) あんま勘違いじゃなかったですね。精々誤解されてる程度で。まぁいいや。 (08/05/04)