日記ログ in銀魂


振り返ってもそこに仲間の笑顔は無かった。死体、死体、死体。 天人も仲間の侍も、みんなみんな、死体になって転がっている。立っているのは自分だけ。 「・・・・・・ッ!」 その事に気付いた時、銀時の頭上に降り注ぐのは冷たい雨だった。 斬って斬って斬って。守ろうとしたのは侍の剣。信念。生き方。いのち。 走って走って、最後に振り返って見てみれば、残ったのは死だけ。 誰か、息のあるやつは。 死体の海の中を、彷徨う。けれどいくら探しても生きている仲間は一人もいなくて。 ふらり、と倒れそうになった体が、倒れる寸前に誰かに支えられた。 精気のない顔で見れば、そこにいたのは。 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」 いつだったか、宿場町で飲んでいた時に見かけた男だった。 そこにいるだけで存在感があるくせに、冷めた顔をして酒を呷っていたヤツ。 勝負をふっかけた酔っ払いの刀を素手で受け止め、挙げ句その刃をへし折ったとんでもない男。 その男が、どうしてここに。 「熱は冷めたか」 「!!」 銀時の顔が蒼白になった。雨に打たれて体が冷えた為ではない。 男の言葉に、銀時は顔を強張らせた。 銀時が守ろうとしたものは、人の手が包むにはあまりに大きく、一人が背負うにはあまりに重い。 けれど、仲間がいたから。志を同じくする仲間が、銀時の傍にはいたから。 だから。 「もう、休め」 銀時の手の平から滑り落ちてしまったものは、あまりに多く、重く、そして気付くには遅すぎた。 何よりも大切に思っていたものだったのに、今はもう、何も。 何も、残らずに。 「・・・・・・ハハッ、・・・・・・・・休めだと?」 ああそうだな、その通りさ。俺とお前以外、誰もこの場で立ってるヤツなんかいやしねェ。 敵も味方すらもいないんじゃ、剣を振るったって意味が無ぇ。 分かってるさ、それくらい。 「俺は・・・・・ッ!」 「お前は、魂を守ったんだろう」 「・・・・・・、たましい・・・・・・・・・?」 呆然と呟く。俺が何を、守ったって? 仲間は死んだ。誰も生きちゃいない。心臓は止まり息はすでに無く、二度と目を覚まさないのに。 「その輝きを鈍らせない為に、穢されないように、砕かれる前に、全力で守るために戦ったんだろ  う」 「、・・・・・・・まも、る」 魂が砕かれる。 己の信じるもの、守りたいと望んだもの、それを実現させる為に立ち上がり剣を振るい抗ったのは、 何の為だ。 ・・・己を、貫く心。その根底にあるもの。己の内側から真っ直ぐに叫んでいたものは。 「・・・・・・・・たましい、か」 侍の魂は刀。それを折られない為の戦いだったはず。けれど、本当に守ろうとしていたのは刀では ない。それは形にしか過ぎない。 本当は、刀という物体ではなく、刀に託された侍の魂。天人の襲来により、滅び行く事を良しとし なかった侍たちの、芯に根付いて錆びなかった心。生き方。 命は守れなかったかもしれないけれど。 それは偽善に過ぎない言葉だ。 けれど侍としての生と死を守っただろうと。侍として生き、侍として死なせてやれたのだろうと。 守れたのはそれだけだった。せめて生かしてやりたかった。けれどそれは無理だったから、と。 何とも有り難くもない慰めだろうか。結局は仲間を守り通す事が出来なかったのに。 けれど、ああ、魂ね。そういう考えも悪くない。 俺も、もちろんあいつらの魂を叩き折らせるなんざ、冗談じゃねぇ。 あぁ、そうさ。命はくれてやっても、この魂だけはてめぇらなんぞにくれてやらねぇ。 命は奪われても、侍に宿るこの魂だけは、決して天人なんぞに屈して滅びやしねぇ。 ましてやそれを易々と折らせてやるものか。曲げさせる事も、濁らせる事も、何一つとして。 この真っ直ぐに己を貫き揺らぐ事のない、魂だけは。 守れただろうか。己が立ち上がる事で、己が立ち向かう事で、仲間の魂を。 分からない。知る術が無い。けれどこの男は守ったと言う。己は守れたのだろうか。 けれどやっぱり、それを認めるには誰の姿も見られなかったので、銀時はゆっくりと目を閉じた。 何もしなければ、おそらく守る事さえ出来なかったであろう、仲間の魂を思って。 (08/03/25) (08/04/05)加筆修正