日記ログ in彩雲国 SIDE秀麗
「その人はね、食べるものがなんにもない私たちの前に、突然現れたわ」
王位争いで荒廃した紫州。次々と人が餓死し、動くものがあれば何でも追いかけて食べた。
その最中に突如として現れた、変わった衣装を纏った人。
「初めは何の冗談かと思ったわ。だって、その人背中に大きな袋を抱えていたのよ?」
いくら成人男性とはいえ、そんなに大きなものは持てないだろうと誰もが思う、その巨大すぎる袋。
その中には大量の食糧が入っていた。木の実やら肉やら野菜やら、一緒くたに色んなものが。
最初はみんな色めき立った。待望していた食べ物が手に入ったのだから。でも。
「親切な人が分けてくれたんだと思ったわ。でもそれも一日で終わるだろうって、周りの大人たち
は言ってた。・・・・・でも、違った」
次の日も、そのまた次の日も、男は袋を抱えてやって来た。相変わらず、袋には大量の食べ物を入
れて。
どこから持ってきたのだろうかと思った。「ドロボウしたの?」幼い私はそう言ってしまった。
けれど彼は小さく首を振って言った。「これは俺が自分で取ってきたものだよ」
生半可な事ではなかっただろう。一体どれだけ駆けずり回ったのか、彼の靴はとても汚れていた。
けれど彼はそれをやめなかった。時々中身が少なくなれば、彼はすまなそうに謝って、また食糧を
集めに駆けていった。
「その人のおかげで、私たちは生き残る事が出来たの」
私たちを助けてくれたのは、貴族でも、官吏でも、国でもなくて。
たった一人の、優しい男の人だった。
「でもね、彼は混乱が収まる頃と同時に姿を現してはくれなくなった」
どうして。
幼い私は分からなくて父様に問いつめた。どうしてあの人は、来なくなってしまったの?
父様も「分からない」と言った。「だから次に会えた時に、お礼をしよう」そう言って笑った。
それから、いくつの季節が巡ったのだろう。
「あの人は言ったわ。子供が時代に殺されて、大人の事情で死ぬなんて、あっちゃいけない事だっ
て」
だから官吏になろうという思いが増した。彼のような官吏がいてくれたら、あんな事にはもしかし
たらならなかったかもしれない。
「だから、私はここへ来たのよ」
あなたが王になるために。
生きろよ。
そう言った彼の言葉が浮かんで消えた。
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(番外夢主)
ハンター時代にジャングルを駆けた経験がこんな所で役に立つとは・・・。
人生何が起こるか分かんないね。
近くの木から果実をもぎ取ってはかついだ袋にぽいぽいと入れる。
ああまだこんだけじゃ足りない。
足を速めて今度はすれ違いざまに鹿の首を折って担ぐ。よし、肉GET。
近くの山場から少しと、後は遠くから食料を調達する。
一つの所で取りつくすと、自然のバランスが崩れるからだ。欲張りはいけない。
早く集めて届けよう。
死者の為にレクイエムを弾き続ける、あの小さな女の子の為に。
(08/03/24)
(08/04/05)加筆修正