冥夜の審問


夜の街。 それは昼の姿とは180度顔を変えて、一部の人間達に違う世界を見せつけてくる。 夜は、ライダーたちの時間だ。 ・・・・・・だからこそ、最新の注意を払って俺は走ってる訳なんだけどな。 あのさ、すっごい疑問。なんで、なんでこの街には王の人たちがいっぱいいるの? 何でここ!? 別に悪いとは言わないけどさ、バラバラだっていいじゃん! 何で示し合わせたよう に実力派揃いのエリートさんたちがこの街に集ってるの!? おかしくない!? ・・・・・俺、引っ越そうかな・・・・・・。 などと、割と真剣な思いを抱くが立っているのは、病院の屋上だった。 べ、別に怪我したらすぐに治療できるとか、そんな打算的な考えじゃないぞ!? あッ、その目、信じてないだろうッ!? ほら良く見てみろよ俺の目を!! 夜独特の風が頬を撫でる。 飛び降り防止用のフェンスを背に、俺はこのまま帰ろうかと思い始めていた。 だって、あのさ、バトルをやる場所とか時間とか、確かパソコンとかで見れるんだよな? でも俺アドレス知らないし、どこでやってるか分かんないんだよね。 つまり、俺の帰り道でバトルやってる最中だったら物凄くヤバイんだよね。 で、さっきも言ったけど、ここってすごい人たちが集まりやすい場所な訳だ。 つまり、上級者にハチ会う可能性が高いって事。 今頃気付いたって遅いんだけどさぁぁぁぁぁッ!! 「何しとるん?」 ッギャアアァァァアアァアァアァア!!!?? 俺はびっくー! と肩を震わせた。 嫌っ、なに、今声が聞こえなかった!? 屋上って立ち入り禁止だよね!? 自分の事は棚に上げて恐怖心に身を震わせる。誰だっていきなり声かけられたらビビるだろっ!? あ、あの、あの、し、信じたくないけどまさか、ゆ・・・・・・ っうわぁぁぁ!! し、信じない、俺は信じないぞっ!? ハンター世界だって心霊現象っぽいのは 念で説明出来るんだからなっ! だからって霊魂否定する訳じゃないけど今は勘弁ってかやめてそ んな事知りたくもないです成仏して俺はあなたに何も出来ませんブルブルブル。 「なぁ、聞いとる? 自分そこで何してん?」 頼むから誰か幻聴だと言ってくれぇぇぇぇぇ!!! 畜生ぉ、今俺念じてんじゃん、伝えてるじゃん俺は役立たずだってぇぇぇ!! 俺は八つ当たり気分で後ろを振り返った。 ・・・・・・しまった。 俺は振り返る半分くらいで失態に気付いたが、勢いづいた首は止まらない。 あああああ、ちょっとばかしムカついたからって現状忘れるなんて馬鹿じゃん俺っ! ナントカは急に止まれないって言うけど、こういう時くらいは止まってくれてもいいじゃん! ・・・・・・俺の事だけどさっ! 「お、やっとこっち見よったな。なんや、勿体ぶってつれないやないか」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・あれ? この人、・・・・・・・・・誰だっけ? 恐怖で満ちていた頭が正常に機能しない。 あれだ、負荷が掛かりすぎてフリーズしたのとおんなじ。 って、それが分かったからってこの人が何者か分かる訳じゃないじゃん! ・・・・・・一人突っ込みって虚しいよねー。 ・・・・・・・・いや、何度目かになる独り身の寂しさを実感してる場合じゃない。この人は、誰だ? 夜だからあんまり顔見えないのも原因だけど、うーん。 声が男だから、多分男の人なんだろうけど、でも誰だかさっぱり。 あ、でもちゃんと足はあるな。よし、取り敢えず幽霊じゃない! はホッとしてようやく息を吐き出した。 もしもここがアニメの声がまんま反映されてるとしても、俺、アニメ見てないから分かんないんだ よね。録画しても録画したのを忘れて重ね撮りしちゃうから。 ・・・・・・・あぁそうさ、どうぜ自分の所為だよへへーん・・・・。 ぐ、せめて顔を、顔を良く見なければ! 俺は目を細めて男の方を見た。えっと、シルエットからして車椅子に乗った人なのかな。って、こ の人帽子かぶってるし! 余計分かんないよ! ついでに車椅子なのにどうやって屋上まで来たんだよ! 鍵はどうした! 「そんな睨まんでもええやんか。怪しいモンとちゃうで?」 「・・・・・・・・・その風体で、か?」 「ん? あぁ、この格好は当然や。自分、入院患者やねん。だからここにおっても不思議やない」 ほぅ。 ・・・・・・病人が夜、閉鎖されてるはずの屋上に、一人でいるのは不思議じゃないと仰る。 は思わず呆れて半目になった。 そりゃ、窮屈に思ってるんなら開放感を味わいたいのは分かるけどさ・・・・・何も今ここに来る事な いと思いますよ・・・。無茶する人だなぁ。 男は話しながらもに近付いていった。 おかげでその顔がだんだんと明確になっていく。やけに人好きのする顔でフェンスに近付く男に、 は若干引いた。 な、何だよ、そんな楽しそうな目をしたって俺はお前と違ってただの不法侵入・・・・・あ、あの、も しかして通報しようとか考えてますか? ヤっ、ヤバイ! 俺まだ刑務所には入りたくなーい!! 一気に焦ったは、男に向けていた顔を反転してフェンスから手を放した。 この先に暴風族がいようとバトル中だと構うもんかッ! 今はとにかく逃げろ俺ーッ!! 「ちょお、待ちぃ」 「・・・・・・何だ」 俺は律儀に駆け去ろうとした足を止めて再度振り返る。無視は良くないからな。 「なんや一人でおるっちゅーのも寂しいやんか。良ければ話し相手になってくれへん?」 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は? 俺は目を丸くした。だってこいつにとって俺は予想外の存在なんだろ? どう見たって一人になる のが目的でここに来ましたって言ってるのに。 俺は驚いて体の力が抜けてしまった。そしたら背中がフェンスに当たって、ちょっと寄りかかるみ たいになった。それをこいつは了承と取ったみたいで、にこっと笑う。 ・・・・・・いや、そんなつもりじゃ・・・・・・ッ! 「なぁ、あんさん・・・・・アカン、そういえば自己紹介もまだやったな。武内空いうんや、よろしゅ  うな。 あ、呼び方は空でも空ちゃん、でもええで! ただしちゃんと語尾にハートつけて呼ばん  とアカンからな?」 ・・・・・・テンション、高っけぇ。 俺はここに留まるつもりは無い、と言うつもりだった口が閉じるのを他人事みたいに感じていた。 「・・・・・・それで、空は何がしたいんだ」 間違っても空ちゃん(はぁと)なんて呼べない。言ったら俺が俺を気持ち悪く感じてどうしようも なくなる。絶対。自滅だけは嫌だ・・・・。 げんなりして言うと、空(きっと武内って呼ぶと他人行儀だって騒ぐんだろうなぁ・・・・)はカラカ ラと笑い声を上げた。元気だね、君。 「まぁまぁ、急ぐとええ事ないでー? ま、一番の理由は暇やったからっちゅーのもあるんやけど、  ・・・・・・あんさん、ライダーやろ? こんな所まで登ってくるなんて、随分とすごいんやなぁ思て  声かけたくなったんや」 「・・・・・普通に登っただけだ」 だって見つかったら怒られるどころじゃないじゃん!? エア・トレックって、漫画の人たちはガンガン使ってたから忘れそうだけど、世間的にはまだまだ 危ないって言われてるんだよね。もちろん、スポーツとして活用する分には理解はあるけど、それ が暴風族、となると話は別だ。 ・・・・・・俺には、真似できないよ。 あんな怖い事っていうか痛い事っていうか恐ろしい事をしようとする君たちが理解できないッ! 折角この平穏な日本にいるっていうのに、勿体なさすぎるぞ! 損してるよ絶対ッ!! 「なぁ、あんさんはどっかのチームに入っとるんか?」 「・・・・・・いや。どこにも所属していない」 ねぇ、すごくグサッとくる質問してくれたね、空。 俺はぴきりと顔を強張らせた。あ、今ちょっと歪んだ顔してるかもしんない。 ああそうさ! 俺は未だに誰もエア・トレック仲間のいない寂しい独り身だよッ! 顔見知りだって 少ないさ! シムカとスピット・ファイアと・・・・・・、・・・・・・・・・悪かったなぁーッ!! 「・・・・・へぇ。意外やな。なら、これからチーム作るん?」 「作るつもりも所属するつもりも一切ない」 「・・・・・・、えらい勿体ないのぉ。あんさん、天辺目指そ思うとるんとちゃうん?」 ・・・・・・・・・てっぺん? 「ライダーなら誰しもが思うとるやろ。誰よりもこん空のいっちゃん高い所。ライダーとして最高  の高みやんか。あんさんはそういうの、思った事あらへんの?」 ・・・・・・・・・あっ! 思い出した! 俺は内心でぽくんと手を打った。 そうだそうだ、忘れてたこの関西弁! この人イッキの兄貴分の、武内空じゃん! 俺はようやく思い出した事実に思わず笑みを浮かべた。 そうだよ、この人元ライダーじゃん。漫画は途中までしか読んでないけど(ハンター世界に飛ばさ れちゃったからね・・・・・ハハハ。あ、今頃他の読みかけてた漫画読みたくなってきた)確かイッキ に色んなアドバイスとかしてたよな。 俺は嬉しくなってますます笑みが深まる。 だってこんなに気さくな人だったらさ、俺の技術・・・・・・とは呼べないかもしれないけど・・・・とにか く改善点とか教えてくれるかもしれないじゃん! あー、神様ありがとう! 俺は今だけ感謝を捧げるぜ! よし、今なら思った事とか参考になる事、聞けるよな! しかもライダー歴長い人の話だぜ!? これは色々教えて貰わなきゃな! あ、そういえば・・・・・・さっき天辺がどうとか、って言ってたな。ライダーの頂点って事? え、そ れって何だろ。うわ、すげぇ聞きたい。 俺は逸る気持ちを抑えて空の顔を見た。きっと期待でいっぱいなんだろうな、今の俺。 あ、ちょっと、キモいとか言わないで。引かないで。 「頂上とはどこにある?」 すっごく興味あるんですけど。 だってライダーの高みなんだろ? そういう事を聞くって事は、それを知ってるって事だよな? 空はちょっとびっくりした顔をして俺を見た。 そりゃ、いきなりこんな『期待してます!』な目で見られちゃそう思っちゃうんだろうけど、早く 聞かせて! 今なら俺、わんって言ってもいいよ! でもそんなに『待て』をされちゃ泣いちゃうか ら出来れば今言って! 「・・・・どこって、そりゃ、・・・・・・空の果て、やろ」 ・・・・・・・・・焦らす気かコノヤロー!? ちょ、更に分かんない事言わないでよっ、余計分かんなくなった! 「果てとはどこにある?」 もっと詳しく! 具体的に! 分かりやすい説明プリーズ!! 鬼気迫る勢いで空の顔を見ると、空はしばらく黙った後、口を閉ざして何も言わなくなってしまっ た。あー! そんな、呆れないで! 見捨てないで! 明らかに『こんな理解力皆無なヤツにこれ以上説明したって分かる訳ない』って顔してるよ! ・・・・・・しまいには視線外されたッ!! ちょ、ショックなんですけど!! はぁ。これってアレかな。そんな事も知らないようじゃ教える価値も無いって事なのかな。 俺は諦めて空の前から身を引いた。しつこくして嫌われたらヤだもん。折角増えた知り合いなのに さ、こんな事で気まずくなりたくないじゃん? ・・・・・・知り合い増やせよっていう話なんだけどね。悲しくなるから言わないで・・・・・・。 ・・・・・・風が強い。そんな、天候まで俺の事を嘲笑ってるよ・・・・・・。 ちょっぴり強めの風に吹かれて、の心は少しやさぐれた。 ちぇー、どうせ頭悪いですよー悪かったですねー。・・・・・・ん? 風? ・・・・・・・・・・・・あ。 「そろそろ、病室に戻った方がいいんじゃないのか?」 すっかり忘れてたけど、ここって病院の屋上で、しかも空は入院してるんだよな。ベッドから抜け 出して・・・・・・。暇だったからって良くやるよ、その行動力はどこから来るんだ。 俺は今度こそフェンスから身を離した。いつまでもここにいらんないし、もしライダーに見つかっ たら空も巻き込んじゃうかも知れないしな。それは駄目だ。俺が無断でここにいた事がバレる。 あ、今の本音は聞かなかった事に・・・・・・。いや、空の体の心配もしたのはホントだよっ!? ねぇ ちょっと、目を逸らさないでッ! 話を聞いてぇッ!(ナ●シカ風に) 「・・・・・・、行くんか?」 「ああ」 だからお前も早く休めよ、空。 今の今まで俺に付き合わせていた事はスルーの方向で。 俺は最後に空を振り返って目を合わせてから、さっとその場から消えた。唸れ、俺の両足ッ! もちろん絶状態をしっかりキープしたまま、全力で逃げ帰ったのは言うまでもない。 ・・・・・・あ。 俺、結局空に名前言うの忘れてた。 --------------------------- 夢主、エアギア知識は15刊くらいまで。だから空さんの本性は知らない。 私もちょっとしか知らない。(問題発言) ちょ、空さんの口調ってどんなん? そして一人称って「自分」?「ワイ」? どれ・・・・・・!! おかしい所あったら教えて下さると嬉しいです。 あ、グルナードはいません。鳥目だから。 (08/03/15)