赤にならない信号機 02


不本意ながら流れと成り行きで裏社会にも関わった経験が有る俺。 殺しとか犯罪濃度の高い方法ではない金稼ぎをし、裏で換金し、戸籍を取得した。 ちなみに外見は20代のまま。念能力さまさまだが、この世界だといつか不審がられる気がする。 まぁいいか。 さて、ちょっと資金確保をしすぎた俺は、街をぶらついていた。 あちこちでエア・トレックの宣伝やら店やらを発見していく度に、視線を向ける。 折角だから間近で見てみようという俺の気持ちは推して知ってくれ。 あの世界にいると耐性が嫌でも付くんだよ。 テストには出ないけど、覚えておくといいかもね。人生の先輩からの助言だよハハハ・・・・。 「いらっしゃいませ~」 平日だからか、客数は少ない。 視線だけを動かして商品を見る。知らない場所に行くと警戒しすぎて最低限しか動かないのは俺の 癖だ。言ったろ? チキンだって。あの世界に行きゃあ誰でもそうなるって! さて、どんなのがあるんだろ。 店内を歩きながら観察する。 「・・・・・・・・・。」 あ? 目に付いたエア・トレックに足を止める。 カラフルなものが目に付くなか、そこにあるものだけが異質だ。全部白。カラーリングし忘れ? 無言でそれを手に取る。 シンプルだなぁ・・・・・。 他に単色で販売されているものは無い。 ははっ、俺の目にとまるなんてお前も客運が悪いな。 薄く笑っていると、人が近付く気配がした。僅かに首を巡らせて目を向ける。 「・・・・・・何か?」 「・・・それが気に入ったの?」 あ。 シムカだ。 ハンターの世界も割とカラフルヘアー溢れる所だったが、彼女のピンク色をした髪は特徴的である。 漫画で興味を引いたものなら少女漫画だろうが食指を伸ばした俺は、彼女の事を覚えていた。 「・・・・・・面白いとは、思うよ」 何せ真っ白。 せめてクリスマスとかに売ればいいのにな。パーツとかも色を別にするとか。 軽く持ち上げて答えると、シムカの表情が引き締まった。 いや、笑ってる顔なんだけど、少し険しい顔をして、まるで怖いものを目の前にしてそれでも虚栄 を張って笑みを保っているような。 え、何、もしかしてコレ気に入ってるとか? だとしたら俺はそれを取り上げようとしている客に見えるのかな? 誰も買わないだろうから店に置 いといたのに、俺が手に取ったから慌てて来たとか? 「・・・・・・何してるの?」 「何って、商品を戻してる」 俺はエア・トレックを元あった場所に戻した。 そんだけ見られてんのに戻さない訳にはいかないだろー。後が怖い。 「欲しい訳でも無かったしな」 ただの好奇心、物珍しさから手に取ったが、それだけの事だ。未練も執着も無い。 言い訳がましく弁明する俺。年上の威厳も何もあったもんじゃない。 押し黙ったシムカに背を向けて足を踏み出す。 安心しろよー、俺は(俺が子供と認めるほどの年の)子供からお気に入りを取り上げるような大人 気ない大人じゃないからさー。 「ッ、待って!」 後ろから声が掛かる。 振り向く前に袖口を軽く掴まれた。遠慮がちな力加減が布地を引っ張るだけで終わり、けれど手を 離すつもりでは無いのか、その手は留まり続けている。 「・・・・・・・・・。」 な、何だろう。俺、何かした? ヤバイ、お、覚えが無い。 冷や汗を流す俺に、シムカは切羽詰まった表情で俺を見上げた。怖くて後ろを振り向けない。 「・・・・・・・・・エア・トレック。しないの?」 「興味ない」 だから安心しろよシムカ、俺は大人気ないヤツにはならないからな! そんな気持ちを込めて気合い一発。笑いかけると、シムカはぐっと言葉に詰まる。 あ、ヤベ。言い方が直球すぎたのかな。お、怒るなよシムカ。いや、怒らないで下さい。 「・・・アレで、空を飛びたいとは思わない?」 「相応しいとは思えない」 俺が。 そんな事したらエア・トレックの方が可哀想だって。きっと俺だと壊しちゃう。 「貰っていっては、くれない?」 「・・・俺が、か?」 おいおい、何言ってんだシムカ。 俺は笑みを浮かべた。 冗談は言っちゃ駄目だって、本気にするヤツは世の中にいっぱいいるんだから。簡単にそんな事を 言っちゃいかんよシムカ。 「お金はいらないわ。だから、受け取って。あなたに使って貰いたいの」 へ? 「・・・・・なぜ」 「・・・あれは、貴方にしか使いこなせない特別なものだから」 お、俺みたいなヤツにしか使えないような、初心者も初心者向けだったりするのか、コレ!? あ、だからシンプルなのか!? ・・・あぁ、だから売れ残ってたのか。あれ、じゃあこれってシムカが密かに取っといた思い入れの あるものでも何でもなくて、あまりに素人用だから誰も購入しなかっただけ!? 俺、売れ残りを処分する為の絶好のカモだったって訳なんだね・・・・・・。 分かったよ、貰う、貰うよ。 そんな必死な顔しなくても、お店の売り上げに貢献に協力させて頂きます。(後が怖い) シムカは先程のエア・トレックを抱えてから俺を追いかけていたのか、下を向けばシムカの腕に抱 えられた真っ白なそれがあった。用意がいいね、シムカ。 手を伸ばし、片手でそれを持つ。 ・・・・・・軽いな、さすが初心者向け。 驚きで目を丸くするシムカを前に、ポンポン、とエア・トレックを宙に浮かせては手に収める。 おー、軽い軽い。 俺は財布を出して適当に中身をひっつかみ、シムカの手に握らせた。 「えっ・・・・・・」 「代金」 タダでくれるって言うけどさ、タダほど怖いものは無いんだよ(チキンで悪かったな!)。 神サマよ、これは暇をこれで潰せっていう啓示か何かなのか? (08/02/09)